《前田穂南×マラソン》マラソン界に現れた、注目のニュースター
人生2度目の国内マラソンで初優勝を飾り、急成長を遂げる彼女。そんな中、初めての海外マラソンで自分に足りないものが何かを知る。1年を切った東京オリンピックの選考会。その夢の扉を開く挑戦が始まっている。
間近に迫ったオリンピック選考会。スピードを強化し、東京五輪を目指す。
オリンピック種目のなかでも注目度の高い女子マラソン。その期待の星が天満屋女子陸上部にいる。彼女の名前は前田穂南。ふわっと柔らかな雰囲気を持ち、インタビュー中にときおりみせる笑顔がキュートな22歳。2017年8月に挑戦した人生2度目のマラソンで、見事に優勝。勢いそのままに2018年1月に開催された「大阪国際女子マラソン」で自己記録を一気に5分も縮め2位の好成績を残すなど、東京五輪が楽しみな選手だ。
そんな彼女が陸上と出合ったのは、小学生のとき。学校の先生に勧められたのがきっかけで陸上をはじめたのだとか。当時から自他ともに認める負けず嫌いな性格。小学校のマラソン大会では、持ち前の負けん気を発揮して校内で1位を獲得する。中学では陸上部に所属。地元・兵庫県尼崎市では、800m走、1500m走で2種目を制覇した。
高校は陸上の名門・大阪薫英女学院に進学。しかし高校時代はケガなどもあり、思うように走れない日々が続く。そんな中、高校3年生のとき全国高校駅伝に走れるかもしれないチャンスが訪れる。駅伝メンバー5人のうち、最後のひとりの枠をめぐり競うことになったのだ。だが最終的にメンバーに入ることはできず、前田選手のいないチームは、全国高校駅伝で念願の初優勝を果たす。当時を振り返り「目の前で見ていて、全然うれしくなかったです(苦笑)」と正直な気持ちを吐露してくれた。しかし、決して力がなかった訳ではない。駅伝ではメンバーに入れなかったが、高校2年生のときに1500mで大阪府大会2位、3年生のときには大会新記録で優勝もしている。
悔しさもあった高校時代を経て、ゆくゆくはマラソンを走りたいという気持ちが芽生えはじめる。夢を実現するために進路をどうするか悩んだ。「最初は大学に行ってから実業団へ行こうかとぎりぎりまで悩んでいました。ただ、陸上はしたいけど勉強が好きではなかったので大学に行く意味があるのかなと(笑)」。そんなとき実業団から声がかかっていたこともあり、先生が天満屋へ行くように背中を押してくれた。
初めて親元を離れての生活だったが、「岡山に来ることは不安より楽しみの方が多かったです」と前田選手。実業団に入ってめきめきと頭角を現しはじめる。初マラソンは、2017年の1月に開催された「大阪国際女子マラソン」。「記者会見など初めての経験ばかりだったので、ずっと緊張していました」と、新人らしいかわいいエピソードを教えてくれた。マラソンに関しては故障もあり、やっと本格的に走ることができたのは大会の数週間前。準備期間が短くよい状態ではない中で12位という結果に。10㎞を過ぎた時点でしんどさもあったため途中で気持ちが切れてしまい、精神的な部分の弱さに気付くこともできたという。 続いての舞台は北海道。ランナーにとって真価が問われる2回目のマラソンで強さを発揮し、2時間28分48秒の自己新記録で初優勝を飾る。「前回と違って大会前に練習が結構できていて調子もよかったです。ただ、35㎞過ぎで横腹あたりが痛くなったので、これが痛くなかったらもう少しいい記録も望めたかもしれません」。決して満足いくレースではなかったが、前田選手はこの大会で2020年東京オリンピックの女子マラソン選考会(MGC)への出場権を獲得。一気にオリンピック出場への夢が近づいた。だが、彼女の躍進はこれだけではなかった。その5カ月後の2018年1月に開催された「大阪国際女子マラソン」では、自己記録を一気に5分も縮める好記録をマークして2位に。「北海道マラソン」の優勝がフロックではないことを証明してみせた。そして満を持して初めての海外マラソンに出場することになる。
2018年9月「ベルリンマラソン」。国内で周囲に証明してきた自分の力を試す大会でもあった。結果は7位。「前半からきつすぎて思うように走れなかったです」。マラソンに向けての練習不足もあるが、時差や環境が違う中でいかに結果を残すか。「海外の選手はスピードがすごいので、もう一歩上に行かなければ」と、今後に向けての課題が見つかった。今はスピードを上げるために体幹を鍛えるなど、フィジカルのトレーニングをしている。「スピードを上げていくと体へのダメージがあるので、そこをうまく動かせるようにしていきたいです」。思い描く理想の走りができれば、世界はそんなに遠くない。
2019年9月にある東京オリンピック選考会は一発勝負。ここでオリンピックに出場する選手が男女各2名ずつ決まる。選考会まで一年を切っている今は、駅伝に向け練習をしている。取材の数日後には一カ月間、アメリカのアルバカーキへ合宿に行く。「これからもっと力強い走りと後半もしっかりペースアップするような走りをしていけるように練習をがんばるので、応援よろしくお願いします」。来年の選考会後、彼女が満面の笑みを浮かべる姿を、そしてあこがれの舞台に立つ姿を心待ちにしている。
(タウン情報おかやま2018年12月号掲載より)