Mission_64/「鬼びっくり」の由来は、21世紀の桃太郎伝説がテーマ。ユニークな老舗菓子店の魅力と、引っ越した鬼の行き先を調査せよ!
「国道沿いの鬼がいる店」でおなじみ『鬼びっくり饅頭本舗』を訪問。
マンホールや看板、変わった建造物やお店など、街のちょっと気になるアレコレを追っかけるのが大好きな『まかせてちょ~査団スペシャル』。
団長Mが今回訪れたのは、山陽と山陰を結ぶ国道180号線沿いにある、昔からずーっと気になっていたあのお店です。
場所は総社市種井。総社市街を抜けて北上すること約20分、高梁川とJR伯備線に挟まれながら大きくカーブする地点に突如お店らしき建物が現れます。屋根の上には何やら赤い物体が。
その正体は…険しい顔をした鬼の像。建物の周りにも巨大な赤鬼の像が数体あり、思わず二度見してしまうほど異彩を放っています。
建物の脇に置かれた顔はめパネルには、『鬼びっくり饅頭本舗』の文字が書かれていました。そう、ここは地元で「赤い鬼のいるお店」としておなじみの菓子店。一度聞くと忘れられないほどユニークな店名です。
こちらが『鬼びっくり饅頭本舗』の建物全体。店名よりも「長崎カステラ」の文字が大きいのが気になりました。どうやらまんじゅうとカステラの2大看板商品があるようです。
団長Mが初めてこのお店を目撃したのは、今から10年ほど前のこと。思わず「何なん、これ…」と呟いてしまいました。近づくにつれて、赤い物体が鬼だと分かるあの瞬間の胸のザワつきを、一体何と表現したらよいのでしょうか。
よそ見運転は厳禁ですが、カーブ手前で強制的にスピードを緩めさせる強烈なインパクトがありました。
10年間ずっと気になりつつも、なかなか足を運ぶ機会がなかった『鬼びっくり饅頭本舗』。高梁川流域の名物店として知られた存在ですが、一体どんな経緯でこのようなお店になったのでしょう? 早速お店の方にお話を聞いてみることにしました。
「いらっしゃいませ~」
敷地内にある鬼の像とともに、お店を切り盛りする西さんが出迎えてくれました。
160センチ未満(推定)の西さんの身長と比較すると、鬼の身長はだいたい3メートル前後といったところでしょうか。アバウトですみません! とにかく、近くでみるとなかなかの迫力です。
名物「鬼びっくり饅頭」誕生秘話。先代が考えた新説・桃太郎が命名の由来?
『鬼びっくり饅頭本舗』は昭和50年代に創業。元大工だった初代店主が建てたお店で、大工仲間だったご主人の西さんもお店を手伝っていたとか。初代店主が地元の高知県に帰ることになり、二代目として夫婦でお店を引き継いだそうです。
奥さまの西さんは、「私がお店に入った時から『鬼びっくり』な状態だったから、詳しいことは分からないんですけどね」と前置きした上で、鬼がモチーフになったいきさつを教えてくれました。
「初代がお店の顔になるお菓子を作ろうと考えて、看板商品の『鬼びっくり饅頭』を制作。それを店名にして、マスコットキャラとして鬼の像を立てたようです」(西さん)
こちらが「鬼びっくり饅頭」。包み紙には桃太郎にひれ伏す鬼の姿が描かれています。鬼が手にしているのが、この「鬼びっくり饅頭」です。
こちらの商品は、先代が空想した「21世紀の桃太郎」のお話を元に生まれました。
本来の桃太郎は家来の犬、猿、雉を連れて鬼退治にいきます。しかし、これはあくまでも昔のお話。現代は対話と協調の時代であり、21世紀の桃太郎なら力で鬼を制圧せずに商談で事を解決するだろう…と先代は考えたのです。
その時、桃太郎が手土産に持参したのが、鬼もびっくりするほど美味しいおまんじゅう。すっかり満足した鬼との商談も無事成立し、晩餐会の席で「鬼びっくり饅頭」と名付けられましたとさ…。めでたしめでたし!
先代は、「きっと未来の桃太郎は、こんなストーリーに変わるのではないか?」と想像したそうです。桃太郎も武力ではなく対話によって平和的解決を実現する、そんなラブ&ピースな物語がおまんじゅうになったのですね。
それを聞くと、包み紙の鬼も土下座したわけではなく、感謝の意を示しているように見えてきます。決して、桃太郎に1000倍返しをくらった訳ではなさそうです。
「鬼びっくり饅頭」は俵型の小ぶりなサイズと、黒糖&鶏卵の2色の生地が特徴。中はこし餡入りで、15個入り650円、32個入り1330円の2タイプがあります。気軽につまんで食べるのにちょうどよく、素朴な甘さでとっても美味しいおまんじゅうです。
手作りの素朴な和洋菓子が人気。地域に愛され続けるお店。
ショーケースには、「鬼びっくり饅頭」以外の和洋菓子がズラリと並んでいました。建物に書かれていたカステラを含め、いろんな種類のお菓子を製造・販売しています。
「カステラは『鬼びっくり饅頭』と並ぶ定番商品。プレーンな味の『長崎』と、『抹茶 チョコ 大納言』の4種類があり、半斤サイズで販売しています」(西さん)
写真は「大納言」750円。そのほかの味は各700円で販売しています。しっとりした生地と小豆の食感、上品な甘みとのコンビネーションを楽しめます。
洋菓子では「ブッセ(160円)」や「リーフパイ(2個250円)」、和菓子では「さくら餅(2個260円)」なども人気だそう。「いちご大福」や「くず餅」といった季節菓子も評判で、土・日曜、祝日には「かりんとう饅頭」が登場するとか。種類豊富な手作りのお菓子は、どれも手土産にぴったりの品ばかりです。
西さん夫妻の娘さんもお店を手伝い、クッキーや「小鬼プリン」といった洋菓子系を担当しています。何と外にある顔ハメパネルは、美的センス抜群の娘さんが描いたものだそうですよ。
鬼のイラストが描かれたラベルシールもあり、一貫して鬼がモチーフとなっています。外観のインパクトとは裏腹に、とてもアットホームで親しみあふれるお店です。
西さんは「本当は鬼面を象った『焼き饅頭』を製造販売していたのですが、2018年の豪雨災害で製造機械がダメになってしまって。よい方法があれば復活させたいんですけど」と、少し寂しそうに語ります。
『鬼びっくり饅頭本舗』のある総社市種井地区は、「平成30年7月豪雨」により甚大な被害を受けました。お店の前を流れる高梁川が氾濫し、国道180号と近隣のエリア一体が浸水。西さん夫妻はお店と住まいが両方とも被災してしまい、しばらく避難生活を送ることになったそうです。
「かなり怖かったですし、被災後はしばらく放心状態でした。それでも地域の方やボランティアの方が非常によくしてくださったおかげで本当に助かりました」
周りの人たちの支えもあり、マイナスからの復活を決意。被災から4カ月後には何とか営業再開にこぎつけられたそうです。
雨ニモ風ニモ負ケズ、立ち続ける鬼の像。仲間の1体を新見市の山中で発見!
決まった定休日もなく、朝から夕方までパワフルに働く西さん。「夫婦で代替わりしてから30年以上経つんです。よう働くでしょ~! おかげ様で地元の方に長くご愛顧いただいて、ありがたいことです」と笑顔で話してくれました。
西日本豪雨で浸かりながらも鬼達はびくともせず、長い歴史の中でも表面を塗り直した程度だとか。元大工さんが手掛けただけに、とっても頑丈です。豪雨にも耐えた鬼として、なんだか御利益がありそう。鬼だけど。
恐ろしいながらも、不思議と愛嬌が感じられる表情ですよね。この鬼さんの裏側は…
何とリバーシブル! どっちから見ても顔があるという異形っぷりが怖いです。
「屋根の上の鬼は、昔ライトアップしてたんです。夜中に目を光らせてたんだけど、故障してからそのまま。建物の横にも鬼の像がありますよ」(西さん)
目の光る鬼も衝撃ですが、お店の横に編成された鬼たちもなかなかのインパクト。複数いると怖さが増します。
「全部で6体あったけど、奥の1体は倒れてしまって。先日取材に来られたTV局のスタジオにいきました。迎えに来たトラックで運ばれていきましたよ」
荷馬車に乗せられ、売られていく子牛を歌った「ドナドナ」を思い出しました。今は5体の鬼がマスコットキャラクターとしてお店を見守っています。
実はこの鬼たちには、もう1体離れて暮らす(?)仲間がいるのだとか。新見市にいるというその鬼はTV番組でも追跡調査されていましたが、団長Mも負けじと探してみましたよ!
地元の方に聞き込んで向かったのは、新見市上熊谷付近の山の中。クルマが1台通れるくらいの細い山道をぐんぐん進んでいくと…いました! ポツンとたたずむ巨大鬼の姿が。周囲は何もない様子。はて、YOUは何しに山奥へ?
どうやらこちらの鬼さんは、新見市の方が今から20年以上前に初代店主から1体を譲り受け、家の目印としてここに立てられたのだそうです。
周囲は何もない山道なので有益な目印となりそうですが、知らずに通った人はかなり驚くことでしょう。ともあれ、この鬼さんも汚れは目立つもののまだ現役。雨にも風にも負けず立ち続けています。
豪雨災害という辛い経験を乗り越えて、今も変わらず地域に愛され続ける『鬼びっくり饅頭本舗』。ちょっぴりシュールな鬼たちと美味しいお菓子を求めて、ぜひ立ち寄ってみてください!
Information
Information
鬼びっくり饅頭本舗
- 住所
- 総社市種井45-1 [MAP]
- 電話番号
- 0866-99-1935
- 営業時間
- 8:00~19:00
- 休み
- 不定休
- 駐車場
- あり
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