《素根輝×柔道》女子柔道界・重量級の次代を担う注目選手が東京五輪出場を目指す。
柔道一家に生まれ育ち、英才教育を受けてきた素根輝は、並々ならぬ努力と圧倒的な練習量で数々の強豪から勝利をもぎ取ってきた。そんな彼女が幼少期から夢見た五輪の舞台はもう目前。夢を夢で終わらせず、着実に実現させる実力と意思の強さを誇る、新進気鋭の素根選手にインタビュー。
圧倒的な練習量と胸に秘めた強さへの渇望を原動力に、五輪・金への一本道に挑む。
世界に圧倒的な力を見せつけてきて、「日本のお家芸」と評される柔道。来年に迫った東京五輪でのメダル大量獲得への期待値も高いが、昨今の海外勢の活躍の前ではメダルへの道のりは険しくもある。そんな中、五輪出場、ひいては金メダル獲得への期待を背負うきら星が岡山にいる。環太平洋大学の1年生、素根輝。女子柔道・78㎏超級のニュースターだ。身長162㎝という小柄な体格ながらも、それを感じさせない堂々とした勇姿が印象的な選手。小さな体を物ともせず、己よりも遥かに上背や体重のある選手を担ぎ、投げる。その雄々しい姿に心が震える人も少なくはない。
父親が柔道経験者、3人の兄も柔道に取り組む柔道一家だったこともあり、彼女が柔道に興味を抱くのは自然なことだった。本格的に柔道を始めたのは7歳の頃。学校が終わるとすぐさま柔道教室で練習に励み、帰宅後は父親と厳しいトレーニングに打ち込む日々をくり返した。父親考案のメニューは、四股踏みや腕立てふせ、腹筋などを組み合わせたサーキットトレーニングに、打ち込みや投げ込みなど多岐にわたる。このトレーニングは、現在まで途切れることなく続いている。そのたゆまぬ努力には感嘆せざるを得ない。
がむしゃらに己を磨いた結果、小学6年生時には「全日本小学生学年別柔道大会(45㎏超級)」でオール一本勝ちの優勝。「全国中学校柔道大会(70㎏超級)」では1年で準優勝、2・3年で頂点を制した。さらに、初めて外国人と対戦した「ドイツカデ国際大会」で世界の実力を体感するも、見事優勝をもぎ取った。だが、内容的には到底納得できなかった。外国人選手の規格外の体格やパワーに苦戦し、「長く戦い続けられるようスタミナやパワーを磨かなければ勝てない」と自身の課題を省みた。そんな中で迎えた「世界カデ柔道選手権大会」では、日々積み重ねてきた練習の成果を発揮し、優勝を飾った。
高校生になっても実績は増すばかりだ。「全日本ジュニア選手権」優勝を皮切りに、初出場のシニア大会「講道館杯」では接戦に次ぐ接戦の末、準優勝を収めた。続く「全日本選抜体重別選手権」では20数年ぶりに高校生が優勝するという快挙を成し遂げた。
そんな華々しい活躍の中、苦い思い出もある。高校1年生時のインターハイ出場を逃したことだ。「全国の舞台に立てないというのは久しぶりで、すっごく悔しくて。とにかく自分の弱さが情けなかった。『このままじゃ駄目だ』と思い、より必死に練習しました」。
自身を律する類まれなる精神力、そして競技人生で積み上げてきた圧倒的な練習量が今の彼女を形成し、幼少期からのトレーニングこそが、彼女を勝利へと導くカギとなる。高校卒業後は、そんな練習を継続して行える環境の整った環太平洋大学へと進路を決めた。郷里を離れ、母親と兄とともに岡山へやって来た現在は、大学での練習や自宅での自主練習に加え、近隣の男子校にひとり出げいこに赴くことも。家族の万全なサポートがあるからこそ、何の憂いもなく競技に打ち込めるのだろう。
今年4月に世界ランキング4位まで上り詰めた素根選手だが、自身の強さはいまだ不十分だという。「自分はまだまだ弱い」「もっと強くなりたい」。何度もかみしめるように放たれる言葉に、勝利への貪欲な闘志を垣間見た。今後の課題はと問うと、「自分には足りないものだらけ」と開口一番。「小さい頃からずっと父に鍛えられたおかげでここまで来られた。でも、自分はまだまだ未熟。だからこそ、練習量では誰にも負けたくない。自分より大きな相手にも競り合って勝てるよう鍛え、組み手や担ぎ技といった自分の持ち味を生かして、体が小さくても勝てるところを見せたいです」。
同階級には、素根選手が「絶対に倒さないといけない相手」と称する朝比奈選手がいる。女子柔道・78㎏超級のトップの座に長年君臨してきた朝比奈選手を制して、初めて五輪出場への切符を手にすることができる。「自分を信じている限り結果は自然とついてくると思っているので、ひとつひとつの試合を大事に勝利をつかんでいきたい。小さい頃からの『夢』だった五輪出場は、今は目下の『目標』。必ず出場し、金メダルを取りたい。いや、必ず取ります」と決意を語った。
目前に迫った東京五輪の大舞台。現女王に食らいつき、最後に表彰台で笑えるか。輝かしい表情で金メダルを掲げる未来の彼女に思いを馳せ、胸が熱くなった。
(タウン情報おかやま2019年7月号掲載より)