「ラーメン店を経営するかたわら各地を食べ歩き、たどり着いたのは地元・岡山の老舗の味だった!」とはまさに「リアル青い鳥」。15:00を過ぎても駐車場は満車でした。
とある日曜。書斎で名曲『ホンダラ行進曲』を大音量で聴いていると、「フム。『かたやま』に倉敷店ができたが。ご店主はそちらの店長をされているそうだ。実質的な本店は移管されたということだな」と、唐突に盟友・ブンガクくん登場(不法侵入で)。となると岡山店がどうなっているのか気になりますよね。「ここは元々岡山市の古新田で『威風堂々』というエルガーの管弦楽のような店名で営業をされていて…」。またはマッチョマンか、高田総統的な、ね。「約8年前に、今の形態に方向転換。『城下のスカイゴッドな名店の、現在のおかみさんスタイル』という細か過ぎて伝わらないインスパイア系(リスペクト系かも)で再スタートをされたのだ」とやたらに詳しい彼氏。確かにその味わいは上質で、漢字で「妖精」とか「さらなる もっとも 恐山」など意味不明な日本語Tシャツを着た訪日米国男性も思わず「YES!」。シャレオツ若者が集う問屋町から道を挟んだ中仙道の現住所に移転した後にはさらに人気店になりました。
「小学生の頃からのファンで。ええ、『威風堂々』の頃からです。味はもちろんですが店主(現オーナー&倉敷店店長)の人柄にほれて、3年前にこの店にスタッフとして入ったんです」と語るのは岡山店の店長・田中遼樹さん。「個人的には濃いラーメンも好きなんですが、当店はクリアな鶏ガラ100%のすっきり味です。そのなかで毎日試行錯誤していますね」。それにしても午後3時なのにほぼ満席で、オーダーはひっきりなしです。邪魔をしてもいけないので少しおとなしくしていると「お、アニキ。お久しぶり!」オーナーの片山さんが倉敷店の昼休憩を使って登場です(岡山店は通し営業)。「田中店長はこだわりが強く頑固でね」。いや、めちゃ人柄よさそうですよ。「ラーメンに対する姿勢がね。プライドを持って、自分の信念を持ってやってくれるから、安心して任せられるんですよ」。なるほど。店を託しても大丈夫と確信したからこそ、思い切って倉敷に進出できたのですね。「2年前に自家製麺に切り替えて。ほかにも色んな取組みをしていますが、彼は大きな力になってくれていて心強い存在に成長しています」。
メインの「中華蕎麦」750円ですね。スカイゴッドな名店の…。「少し軌道修正をしていまして」。えっ? リスペクト系やめたんですか? 「いやいや、やめてないですよ(笑)。ウチのはあくまでリスペクトあってのメニューだから。先方のおかみさんにも話をしてね。ただ弟子としては教わってないので、オリジナルの要素こそが重要になるでしょ」。あ、そういえばオリジナルには2通りの意味がありますね。①原型=スカイゴッドな名店の味。②独創的な=『かたやま』の味わい。「そう。リスペクトの原点の部分は尊重しつつ、ベクトルは同じで微妙に微妙に変化をつけています。常連の方でも気付かないほどささいなことですが、毎日のことなのでトータルではかなり変化があると思いますよ」。毎日変えてるんですか? 「そうですよ。だって天候や素材の個体差など、毎日条件や状態が違うでしょ? 加えて、毎日ラーメンのことばかり考えてて、思いついたらすぐ実践するんです。だからよく取材とかで『こだわりは?』って聞かれても、私には理解できませんし答えられない。『こだわりは?』の問いの意味が分からないです」。
謎すぎる。マーベラス! それは一体どういうことですか? 「だってすべてがこだわりじゃないですか?」。なるほど。すべてにおいてベストを尽して練習しているアスリートに「どこをがんばってますか?」ってお聴きしてるようなもの。それは野暮ですね。先に聞いていてよかったです(笑)。おっと、これはミニ丼ですね。またそそるビジュアルじゃないですか? いい「丼顔(グルメレビュアー風)」してますよ。「人気の『肉飯』370円です。『中華蕎麦』には豚バラとモモの2種類のチャーシューを使いますが、これはバラのみで炙って脂身を出しています」。鼻に抜ける香ばしさがいいですね。中には温泉卵ですか? 「半熟の目玉焼きですね」。それは珍しい。「半熟状態の目玉焼って、黄味が濃厚でうまいでしょう? それがご飯にかかってたらテンションあがるじゃないですか?」。それはもうアゲアゲですよ! 「ほか、味付けノリやマヨネーズなど好きなものを全部入れました(笑)」。まさに「俺ドンブリ」。スタミナつきそうですね。バランスよく仕上がりましたね。「『これでいい』という発想がないから、『仕上がって』はないです。私は『うまけりゃ官軍』がポリシーなのでまだまだ改良したいんです」。日々挑戦と。
最後に「ねぎ蕎麦」860円ですか。ぶっちゃけ、このネギの量だと辛くて食べ切れないんじゃないんですか? 「ウチのネギはすべて岡山市内の提携農園で作られています。普通の『蕎麦』には普通の種類のネギを使っているんですが、やはり苦味があるんですね。だから『ねぎ蕎麦』用には、別の辛味を控えた水耕栽培のものを使用しています」。これも十二分なこだわりですよね(笑)。ラーメンのほうは通常のものと同じですか? 「そうですね。ベーシックな『中華蕎麦』にうつわ一杯のネギを添えています」。これは人気があるでしょうね。そういえば、スープは鶏1羽分でしたよね。「そうですね。そのくらいの割合になりますね」。野菜などは? 「スープには加えてないですよ」。「岡山といえば豚骨しょうゆ」というのが定説になりつつありますけど、この鶏100%のクリアスープももうひとつのスタンダードですよね。あと、気になっているのがさっきから厨房で飛び交っている掛け声なんですが。麺上げと同時に「上がったー!」、答えて「あいよー!」と聞こえます。「厨房の状態の共有と、威勢よさの表現ですね」。なる。
「ラーメン店が元気なくてどうするんですか?」。そう語る片山オーナーも元気。「倉敷店も岡山店に負けないようがんばらないとね」。15:30にまた店内に声が響きます。「上がったー!」「あいよー」。
「すべてがこだわり」ゆえにこだわりを感じさせない人気の店。
創業は2004年。バリエーションの豊富さで人気を集めたお店が、店名を改めて再オープンしたのが2009年。それから、今の場所に移転をしてすでに数年が経過したが、完全に「問屋町(横)の人気ラーメン店」として定着した。片山オーナーは「この場所なら間違いない。勝負できるという確認があった」と当時の確信を語る。その自信通りに若いカップルや女性客などのオシャレ人や、近場で働く幅広い年齢の人など、多彩な顔ぶれが店内にあふれている。「すべてがこだわり」なので「こだわりがない」という逆説もおもしろいが、店主や店長が1杯にかける意気込みは、鶏ガラ1羽分の比ではない。「お店をオープンする前に、自分で店舗の外装の一部を作っていたですよ。すると近所のお店や会社の方が声をかけてくれてね。期待がうれしかったとともに気が引き締まりました」。店頭のオリジナル自動販売機はインパクト抜群で一見の価値あり過ぎ。
Information
中華蕎麦 かたやま
- 住所
- 岡山市北区中仙道55-107 [MAP]
- 電話番号
- 086-250-1686
- 営業時間
- 11:00~OS21:00
- 休み
- なし
- 席数
- 22席
- 駐車場
- 8台
- 姉妹店
- 倉敷店/倉敷市西中新田632-1 きくやビル1階/086-421-3522