岡山メルパ 福武 孝之館長
映画業界20年、老舗映画館を切り盛りする名物館長。映画が持つ「観ることで、自分の世界が広がる」魅力を広めるべく、多彩なイベントを展開。ジャンルや制作者にこだわらない、テキトーな鑑賞が映画愛を高める秘訣。映画が好き過ぎて、あこがれのターミネーターに変身。特殊メイクがんばりました!
「海難1890」
今度のお正月に絶対に観たい映画は「スターウォーズ フォースの覚醒」だが、絶対に観なければいけない映画は「海難1890」である。
昨今、国際社会では紛争やテロなど凄惨を極める事件が多発しているように思う。
国境を隔て、民族が違い、文化が異なると人は争うのだろうか?
そんなことはない、いや、あってはならないのだ。そんな思いを込めて世界平和をうたう素晴らしい映画はたくさん作られている。その多くは国と国とがいがみ合い、戦争の空しさを描いている。しかし今回は国と国との友情と絆の物語である。驚くべきことにそれが実話であると言う事。それは信じられないような奇跡の物語である。
1890年オスマン帝国(トルコ共和国)の軍艦エルトゥールル号は日本の明治天皇に謁見を済ませ帰路についた。船は和歌山県樫野崎沖で台風に遭遇、座礁し機関室は水蒸気爆発を起こす。島中に響き渡る爆発音を聞いた村民たちは岸壁に漂着した膨大な数の死体と船の残骸を見た。わずかな生存者のため我が身を省みず村民たちは荒れ狂う海へ飛び込んだ。
この海難事故は500名を越える犠牲者を出す大惨事となったが、それでも村民の決死の救出劇とその後の救護活動のおかげで69名の尊い命が救われた。
そしてその95年後、1985年イラン・テヘランで日本人の救出劇があった。サダム・フセインによる全ての航空機に対する無差別攻撃宣言が出され、テヘランの日本人が多数取り残された。その時、自国民を危険にさらしながらも日本人のために救援機を飛ばすことを決断したのはトルコ共和国のオザル首相だった。そしてその時、空港に詰めかけているトルコ国民のとった行動とは!
9000キロ離れた国と国が95年の年月を経ても忘れなかった奇跡の真心の実話である。
こんなことが本当にあったのだ。そして今もトルコと日本の絆は続いている。その間戦争が両国を隔ててもなお続くこの真心の交流はなんだろう!
国や文化が違っても人は分かり合える。
そんな理想を語るなと言われても、事実が指し示すものは明白に“愛”である。
難しい感想を語るつもりはない。
ただ、日本人で誇らしい! トルコの人々がカッコいい!
世界平和は可能なのだ!
ゆえに、
この映画は観なければいけないのだ。
トルコと言えば「トルコアイス」しか思い付かなかった私が、今ではトルコに愛を語っているのである。もしこの物語が人間の本質だとしたら、なんと美しいことだろう。
この作品を作った田中光敏監督と関わった全てのスタッフの皆様に感謝と敬意をこめて。
『海難1890』
12月5日(土) 岡山メルパ他公開
岡山メルパ館長 福武孝之