岡山メルパ 福武 孝之館長
映画業界20年、老舗映画館を切り盛りする名物館長。映画が持つ「観ることで、自分の世界が広がる」魅力を広めるべく、多彩なイベントを展開。ジャンルや制作者にこだわらない、テキトーな鑑賞が映画愛を高める秘訣。映画が好き過ぎて、あこがれのターミネーターに変身。特殊メイクがんばりました!
「食べ物と映画」
みなさんは、映画に登場した食べ物と言えば何を思い出すだろうか?
古くて恐縮だが、私は『ダーティ・ハリー』(1971年)のホットドックだ。クリント・イースト・ウッド演ずるハリー・キャラハン刑事は警察の規則お構いなしの強引な捜査をする、元祖“あぶない刑事”だ。私はホットドックを頬張りながら44マグナムをブッ放す姿に、当時熱狂したことを鮮明に覚えている。
多くの映画の中で登場する印象的な食べ物は、時にその物語よりも私たちの記憶に残る。
中には食べ物しか覚えていない映画だってある(汗) もしかすると食べ物(食事)と映画には密接な関係があるのではないだろうか? もちろん、人の日常を描けば“食べる”というシーンは登場して当たり前である。だとすると、日々の食事の場面などは物語の展開に何の関係もない無駄なシーンに思われる。
しかし多くの映画で食べ物(食事)のシーンが登場するのはなぜだろう? それは登場人物が“何”を“どう”食べるかで、その人物の性格や生い立ちまで垣間見ることが出来るからで、食べ物(食事)のシーンは無駄どころか、時間短縮になるのである。
例えば、ホームパーティーでキャビアやマカロンを振舞っている主婦も、みんなが帰った後に手慣れた手つきでカップ麺を作って食べていたら、それはニセ・セレブの見栄っ張りだとすぐわかるのである。従って、私の憧れた『ダーティ・ハリー』は、ただ行儀の悪い乱暴な刑事ではなく、食事の時間や楽しみを削ってでも悪党を退治してくれる正義のヒーローだったのだ。
他にもダスティン・ホフマン主演の『クレイマー・クレイマー』(1979年)に登場する「フレンチトースト」も有名だが、これは離婚した父親が子どもにフレンチトーストを作ってとせがまれるが、うまく作れないエピソードから始まり、やがてフレンチトーストを上手に作れるようになる物語で、ここにこの映画の根幹が潜んでいる。妻に育児を任せきりの仕事夫が子どもへの愛情に目覚め、やがては妻への感謝や尊敬を取り戻すというドラマがフレンチトーストに隠されているのである。
つまり映画に登場する食べ物には「ドラマ」があるのだ。観客はそのドラマ込みで劇中の食べ物を味わうので、そのドラマによって劇中に登場する普通のフレンチトーストが甘くも塩っぱくも感じるのである。
更に2001年に公開された『アメリ』という映画は若い女性に大人気だったのだが、映画をキッカケにブレイクしたスウィーツが「クレーム・ブリュレ」である。プリンの表面を焼き焦がしたアメでふたをして、これを割って食べるのだが、主人公アメリはこれを割る瞬間に幸せを感じるというのである。この彼女のこだわりから、セリフや仕草だけでは表現できない乙女心が感じられないだろうか?
恐るべし映画フード!!
2月20日(土)から岡山メルパで上映されている「はなちゃんのみそ汁」。
余命宣告をされた母親が幼いわが子へみそ汁の作り方を教える。さてさて、どんな味がするのだろうか? 食べることは、生きること。是非、ご覧頂きたい。
作品紹介
- 『はなちゃんのみそ汁』
- 脚本・監督:阿久根知昭 出演:広末涼子 滝藤賢一
絶賛上映中 岡山メルパにて
岡山メルパ館長 福武孝之