《せとうちENLIFE×eスポーツ》eスポーツのシーンを寄島から、岡山から作っていく。
今年7月に新たに発足したプロのeスポーツチーム「せとうちENLIFE」。
実績のある選手たちを多数抱え、イベント運営も手掛ける代表の小笠原さんに、これまでの歩みについて話を聞いた。
環境が整っていない岡山で、まずは若い人が目標にできる場所作りをしたい。
世界規模で熱狂に沸く対戦型コンピューターゲーム・eスポーツ。学校では部活動が設立されたり、全国高校eスポーツ選手権が開催されたりと、シーンも身近なものになってきた。また、国内の賞金総額も2017年の約3億円から、わずか1年で約47億円まで上がり、今やオリンピックの新種目としても採用が検討されているほど。そんな中、岡山にもeスポーツのプロチームが誕生した。
今年7月に発足したのが、瀬戸内を拠点とするプロチーム「せとうちENLIFE」だ。このチームを立ち上げたのが、浅口市在住で代表を務める小笠原修さん。だが、チーム設立までには紆余曲折があった。もともとは家業として地元寄島でカキ漁を営んでおり、それに携わるのは自然の流れだった。だが、周りの養殖業がどんどん廃業し、そして若い人はカキを買わないという現実に、将来を見据えたときに不安な気持ちに苛まれた。そんな時にもっと外の世界に目を向けてみたい、という思いが生まれたそう。そして、カキ漁が忙しくない春〜秋口にかけて、気軽に外の人とつながるべく、パソコンなどの機器を一気に買いそろえた。「これまで全然パソコンにも触ったことがなくて。これぞ漁師という生活をしていたので(笑)」と、最初は設定も使い方も何ひとつ分からなかった。そうこうしてようやくパソコンの扱いにも慣れたとき、オンラインでのゲーム対戦に出合う。顔も分からない人、距離が離れている人とも即座につながれるこの世界に一気にのめり込み、もっと交流を持ちたいとゲームの動画配信をするようになる。そうしたら視聴者がすぐにつき、瞬く間に人気の配信者へ。2016年には、初となるゲーム大会を実施。年々評判を呼び、ついには外国のゲームの制作会社が、ゲーム大会の取材のため直々に訪れるまでに。また、小笠原さんと同じような思いを持っている一次産業の生産者たちとのつながりも増えた。自らの境遇と名前を積極的に公開していくことで、イベントへの賞品を提供したいと、名乗り出てくれる人も増えていった。ゲームを通して、外への世界がどんどん開けていったのだ。
こうしてイベントでの実績を積み、2019年にゲームイベントの運営会社として「アンカーズ株式会社」を設立。同年、茨城国体で「都道府県対抗eスポーツ大会」が開催されたことも追い風となり、地元でやりたい、岡山でのeスポーツシーンをもっと広げたいという思いが生まれてきた。しかし、そんな国全体のムーブメントがあっても、地方での大会はほとんど開催がない。大阪で開催する自身の冠大会は盛況であっても、ビジネスとしてのシーンがまだまだ岡山にはない。プレーヤーも認知もスポンサーも、全然足りていない。自分だけじゃ弱い―。そんな思いから、自身の「ENLIFE」というチームを、地元から応援されるようなチームを作りたいとリブランディングし、「せとうちENLIFE」を2020年7月に立ち上げた。小笠原さんは「eスポーツは、県外の人ともすぐにつながれるという魅力があります。一方で、個人でできてしまうため、各地の動きが点になることも多い。そのため県内ではまだまだ横のつながりが少ないんです。点が線になるような、そんなきっかけになればと思っています」とチーム発足についての思いを語る。現在、備前市出身のLuca選手をはじめ、海外で活躍する選手たちが15名ほど在籍。地元選手のスカウトや大会開催などのイベントを行いつつ、世界大会や国体出場などを目指している。
目下の目標は、中四国大会を作ること。岡山県内の高校では、40名ほど在籍するeスポーツ部がある。しかし、その子たちが目指す大会が年間にわずかしかない。せっかくこれだけ盛りあがりを見せているシーンが衰退しないよう、若い人たちが目標を持って活動できる場所、そしてそれをみんなが見られる場所作りをしていくこと。夢や希望ではなく、使命感といえるほど強い気概をもって臨んでいる。「ゆくゆくは、笠岡諸島とか島でできたら瀬戸内らしさがあっていいんですけどね。ネットの環境が大事なので、なかなか難しいんですけど(苦笑)」。未開の地・岡山だからこそ広がる着想は無限大。岡山での今後のeスポーツシーンに注目したい。
(タウン情報おかやま2020年11月号掲載より)
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