《平山姫里有・立野在×アイスダンス》躍動を誓う「きりある」。あとひとつを求めて。
フィギュアスケート・アイスダンスの平山姫里有選手と立野在選手カップル。通称「きりある」。結成初年度となった昨季、確かな手応えを得ることができた。12月に開催される、国内最後の大会・全日本選手権を控えた「きりある」にインタビュー。
昨季得た戦える実感。物語のある曲を引っさげ、さらなる高みへ。
2020年12月号本誌で紹介したアイスダンスの平山姫里有・立野在選手の「きりある」カップル。結成初年度は、全日本選手権で4位に入り、フリーダンスでは全体の2位という高得点を獲得した。確かな手応えをつかみ、2022年の北京五輪を見据え、2021年のシーズンで躍動を誓う二人に近況を聞いた。
まずは、昨シーズンについて、「結果が出て、だいぶ自信がつきましたね。結成一年目のカップルで、滑って手応えはあったものの、どれくらい点数が出るか不安でした」と平山選手。昨年はコロナ禍の影響もあり、これまでとは違うレギュレーションになった。特例で出場が免除になるカップルも多く、大会当日まで、そういった選手たちがどれくらいの点数を出してくるのか、自分たちはどれくらいの位置にいるのか分からない。立野選手も「ぶっつけ本番に近い感覚でした」と話す。しかし、フリーダンスで2位という結果に、「自分たちはちゃんとやれば点数は出るものを持っている」と戦える実感を得られた。
そうして今シーズンの準備を始め、リズムダンス、フリーダンスともにプログラムを変更し、今年はさらなる高みへ︱︱。しかし、そこで思わぬ問題が浮上する。昨年は、ほかの選手とともに、『岡山国際スケートリンク』で練習を積むことができたが、今年は状況が変わり、練習拠点や時間を確保するための費用面が問題に。自分たちが担える範囲では、納得のいく練習時間を確保することが難しくなった。「今年は勝負の年」と奮起する思いとは裏腹に、不安ばかりが募った。そんな状況を変えてくれたのは、応援してくれるファンの人たち。昨シーズンの全日本選手権直前から、寄付という形で金銭的な支援が受けられるスポーツギフティングサービス「Unlim」に登録していたのだが、シーズンインとなる時期までに、ファンの人たちからの支援が積み重なり、多くの支援を得ることができた。結果、個人の貸切を取って通し練習に時間を割けるようになり、懸念も解消。「練習量や質が昨シーズンとは格段に変わった。去年よりもプログラム自体が体になじんでいる」と、二人とも着実に成長を感じられているようだ。
いよいよ10月になってシーズンが始まり、迎えた予選会。「滑った感触はよかった」という平山選手の言葉通り、結果は優勝。だが、今年も特例があり、今シーズンから新たに組んだカップルや、海外に拠点を置いているシニアのカップルが軒並み出場しておらず、点数の比較をしようがない状況。自分たちの立ち位置が見えない状況にもどかしい思いもある。しかし、間違いなく二人のユニゾンは高まっている。昨年はどことなくお互いの距離感やポジションを確認しているようなぎこちなさがあったものの、今年はお互いのポジションが自然にぴたっとはまっているように感じられる。こういった雰囲気は、さらに一年間練習を積み上げてきた二人の時間が成せる賜物なのだろう。確かな練習量、費やした時間は、きっと今シーズンの結果に結びついてくるはずだ。
ちなみに昨シーズンのプログラムに使用した曲はストーリー性がない曲だが、今年はストーリー性の高い曲を採用している。ここにも実はちょっとした裏エピソードがある。平山選手は、これまで過去にカップルを組んでいたときに、ストーリー性のある曲を使いたいとコーチに打診しても「合わない」と認めてもらえてなかったという。だが、「この二人なら」とコーチの了承も得、「いつかやってみたい」と思っていた曲を念願かなって今シーズンのプログラム曲に選んでいる。平山選手が選んだ曲は、1960年代のフランス映画『シェルブールの雨傘』。結婚を誓い合った恋人同士のすれ違いを描いた物語だが、「フリーダンスで随所に表現しているので、ぜひ注目してほしい」と、プログラムの見どころについても教えてくれた。
「きりある」の強みはどこか。立野選手は「自分たちには秀でている何かはない。でもひとつひとつのベースの質は高い。そこにもうひとつ何かが備われば、上に行ける材料になるはず」と話す。表現ひとつにしてもジャッジにも好き嫌いはある。「上手いだけじゃ点数がつかない。いかに分かりやすく伝えるかも大事」と平山選手もさらなる高みに登るための方法を模索している。万人受けするような伝わりやすさ、ダイナミックさ、表現力…。二人に合うのは何か。12月からいよいよ始まる全日本選手権に向けて、ぎりぎりまで足掻く「きりある」カップル。突き抜けるための「あとひとつ」のピースを埋めて、全日本選手権で羽ばたく姿を楽しみにしたい。
(タウン情報おかやま2021年12月号掲載より)
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