《菱川一心×ブレイクダンス》パリ五輪への期待が高まる、ブレイクダンス界の新星。岡山の若きB-boyに注目。
ストリートカルチャーから生まれ、ストリートダンスのひとつとして数えられるブレイクダンス。昨年、2024年パリ五輪での正式種目に選ばれたことから、注目を集めている競技だ。U15でのタイトルを引っさげ、日本トップ、そして世界へと羽ばたいていく若きB-boyに話を聞いた。
周りを見返したい。厳しい環境を跳ね除け、日本、世界のトップへ。
ストリートカルチャーから生まれ、2024年パリ五輪で採用されたブレイクダンス(ブレイキン)。海外で人気が高く、オンラインで世界中の大会にも参加でき、近年注目されている競技だ。このパリ五輪を見据える、岡山の若きB‐boyを紹介しよう。
それが現在中学校3年生の菱川一心さん。彼がブレイクダンスに出合ったのは小学校2年生のとき。姉がジャズダンスをしていたこともあり、ダンスに興味を持つ中、ブレイクダンスのスタジオを見つけ、体験教室で衝撃を受ける。「見たことがない技ばかりで、こんな動きが人間にできるんだって目が釘付けになりました。見た瞬間に、もうこれだって(笑)」。そこからの、のめり込みようはすごかった。難易度が高い、両足を開いて回転するブレイクダンスの代表的な技・ウインドミルを練習し続け、わずか2週間後で習得。サッカーもしていたが、2カ月後には辞め、ブレイクダンスに夢中になっていった。
しかし、地方でのブレイクダンスの実情は厳しい。練習環境も充実していなければ、大会もない。東京や大阪などの都市圏への大会に出場しても、まだまだ実力が追い付かず、毎回予選で敗退。わずか数分のパフォーマンスのために遠方へ足を運ぶ、そんな生活をサポートしてくれる親への申し訳なさもあった。周囲から両親に対して、「たかがダンスのために」と言われることもあった。しかし、本人も家族もスポーツとして、競技として、本気で取り組んでいる。だから、そんな見方をされないためにも、勝つしかない。負けても負けても折れることなく、ひたむきに前へ。そうしてあがき続けた数年後、大きな転機が訪れる。それが小学6年生のときに出場したブレイクダンス日本一決定戦「バトルオブザイヤー」だ。この大会の15歳以下部門に出場したが、「正直勝てる見込みは全然なかった」と話す。「優勝争いに食いこむほどでもなかったし、予選を通れたらいいなってくらいでした」。本人いわく運も大きかったというが、大きな舞台でいつも以上のパフォーマンスを発揮し、なんと初優勝を果たす。この経験をきっかけに観客のひきつけ方をつかみ、モチベーション、練習の質も大きく変化したという。
順調に実力を伸ばし、2019年のアーバンスポーツの国際大会「FISE」では、一般枠で8強入り。昨年7月の「バトルオブザイヤー」でも、15歳以下の部門で自身2度目の優勝を果たす。そんな彼のスタイルの注目ポイントは、キレとスピード。ブレイクダンスは、スタンディングダンスのエントリー、手をついた足技のフットワーク、ウインドミルやヘッドスピンなどのパワームーブ、そしてスピーディな動きからぴたっと止まるフリーズと、さまざまな技で構成されている。彼はオールラウンダータイプで、キレとスピードで観客を引き付けるスタイルが持ち味。ただ、その中でも大事にしているのは、「ダンス」という要素。ブレイクダンスの試合は、毎回DJがブレイクビーツと呼ばれる独自の音楽を流すため、事前に構成を準備することができず、毎回即興でのパフォーマンスになる。そのため、自身の技を音楽にいかに「ハメる」か。そこがポイントになる。ど派手なアクロバティックはもちろん会場を沸かせるが、ひとつひとつの細かな動きや音楽とのシンクロ。それらが積み重なることで、会場が一体となって爆発的な盛りあがりが生まれるのだ。
今後の課題は、世界で戦うためのオリジナル技を見つけること。引き出しが増えれば増えるほど、即興での対応力、魅せる演技の幅がもっと広がる。だが、彼には若さという武器もある。わずか半年前の「FISE」ではできなかったことがどんどんできるようになっている。「今だと、もっともっと上へ行けるという手応えがあります」と自信を持って話す彼には、本当に底が感じられない。この成長力は、パリ五輪を見据えて楽しみでしかない。
インタビュー後は、写真撮影に。我々からしたら圧巻のパフォーマンスの連続だったのだが、写真チェックでどうも納得いかない様子。「これは少し足先が…。こっちは真っすぐじゃないので…」。そんな微差のこだわりの積み重ねが、きっと大舞台での感動につながるのだろう。彼のそんな姿勢に、アスリートとしての魂を強く感じた。
(タウン情報おかやま2021年2月号掲載より)
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