表町商店街で創業して一世紀以上! 庶民に寄り添い、新しい食文化を広めた老舗パン企業。
2023年の秋にはいよいよ、表町商店街・千日前に『岡山芸術創造劇場』が誕生します。
今回は、千日前と同じ表町3丁目(新西大寺町)で大正時代に創業したパン屋さん『岡山木村屋』のお話です。
「我が社の原点の場所に劇場が誕生しますし、地元をはじめ、いろんな所から人が訪れてコミュニケーションが広がるような街づくりをお手伝いできたら。『食』という部分で地域のイベントなどで協力するほか、表町本店では劇場の動きに合わせた企画もできたらいいですね」と、『岡山木村屋』広報室の野崎雅行さん。
1919(大正8)年、岡山市初のパン屋を開業したのが初代・梶谷忠二氏。生涯、パン事業一筋に営み、経済界はもとより、文化、芸術、教育、福祉など多方面で公職に就き、地域発展のために奉仕したとか。
今や岡山県民のソウルフードとなった『キムラヤのパン』が愛される秘密をひも解くと、常に庶民に寄り添ってきた企業精神がみえてきます。
「岡山の人はパンが好き」。都道府県庁所在地と政令市を対象にした総務省統計局の家計調査(2018~2020年の平均)によると、岡山市の一世帯当たりのパン購入量は年56.6kgで、なんと全国一位!
岡山県民のパン好きのルーツは、『岡山木村屋』にあると言っても過言ではないのでは?
「創業当時、地方ではパンを食べること自体、あまり一般的ではなかったかも…。文献などによりますと、開店初日は物珍しさも手伝って朝から店内はお客様でいっぱいになり、午後3時くらいにはパンが売り切れてしまったそうです」。
1927(昭和2)年頃からは独自の専売店制度を作り、コミュニケーションや品質管理を大切にできる対面販売にこだわってきました。103周年を迎え、岡山県を中心に直営店・直売店合わせて約80店舗を展開する現在も、同じ場所に表町本店が佇んでいます。
忠二氏が創業したのは弱冠20歳の時!
「初代が16歳の時、岡山市から大阪に移り、映画関連の会社で経理の仕事をしていました。そこに勤務していた6カ月間、昼食に毎日、『マルキ号製パン』のパンを買って食べて、『これからはパンの時代だ!』と思ったみたいですね(笑)」。
いろいろなパンを食べ続けるうちにすこぶる体調がよくなり、その味に惚れ込んで、将来パンを自分の仕事にすると決めたとか。パン職人ではなく、経営者として…。
そして17歳の時。大阪に40軒以上の直営店があった『マルキ号製パン』に頼み込んで経理部で働かせてもらい、その7~8カ月間に、経営の極意や社会奉仕、パンの未来などの話を社長から聞いたそうです。
さらに1918(大正7)年、19歳の時。あんぱんの考案で有名な東京の『銀座木村屋』で、見習いとして7カ月間働きます。
「この時、近いうちに岡山に戻ってパン企業を経営したい、と会長に伝えて修業をお願いしたそうです。かなりのバイタリティですよね」。
忠二氏はなぜ、そんなに経営者になることを急いだのでしょうか。
この頃の時代背景を調べてみると、庶民の生活は主食である米の不安定な価格変動に大きな影響を受けていました。ことに忠二氏が東京で修業した年は、米価の急騰により、全国各地で米騒動が勃発し、警察や軍隊が出動する騒ぎになっていたのです。
「人々が食べることに困らないように」。そんな思いから、米の代わりに主食となりうるパンを早く広めたいと考えたのかもしれません。
「1945(昭和20)年の 岡山空襲で表町の店と工場が全焼した時は、戦火に備えて別の場所に用意していた仮工場ですぐに配給用のパンを焼いて地域の人々に届けて、すごく感謝されたそうです」。
終戦となったその年の翌年、食糧難のさなか、アメリカで余っていた小麦を学校給食のパンに利用することを思い立ち、GHQ(日本を占領・管理するための連合国軍総司令部)に直談判。翌年からは東京を皮切りに、全国に学校給食が普及していきました。
「1950(昭和25)年には、表町の少し西に位置する桑田町に、全国に先駆けて本格的にパンの大量生産ができる工場を建設し、より手頃な値段で多くの人にパンを届けることが可能になりました。今も、自家製の餡やクリームなどは昔からのレシピを大切にしています」。
「飽きられないよう、新作パンも年間50~60種登場し、期間限定商品もあります。市町村や生産者と組んで、県内産の野菜や果物などを使ったパンを作るなど、地産地消にも力を入れているんですよ。今後は、3世代に渡って楽しんでいただけるような店づくりもしていきたいですね」。
野崎さんからお話を伺っているうち、新劇場と老舗パン企業のパワーがどんな相乗効果となっていくのか、ますます楽しみになってきました。
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