あたりまえにある身近なあんなものやこんなものに、実はこんな歴史や理由があるのです…。
そんな身近にある何? なぜ?を調べます。
法事パン
津山市や真庭市など、県北を中心に法事の際に配られるという「法事パン」。県北では当たり前のように行われる風習ですが、岡山市・倉敷市などの県南在住の人の中には知らない人も多いのでは? そのルーツや実態について迫ります。これぞ再発見!!
「法事パン」って知っていますか?
「法事パン」ってなに?
津山市や真庭市の出身者から、たまに聞くことがあった「法事パン」の存在。なんでも、法事の際に仏前に参列者から供えられ、参列者が帰りに喪主から手土産として渡される法事パンは、多い時にはひとり10個以上も持たされることがあるとか。編集部のある岡山市をはじめ県南ではあまり聞かない風習です。でも県北出身者に聞くと、「これが普通だと思ってた!」「法事に参加した親がお土産でくれるパンが、子どもの頃はうれしかった」など、思い出話がいくつもあがってきます。そこで、同じ岡山県内でもやるやらないが分かれる「法事パン」について調べてみることにしました。
そもそも、なぜ「法事パン」という風習が行われるようになったのか、岡山の食文化や郷土料理に詳しい、美作大学短期大学部の栄養学科・教授の藤井先生に話を聞きました。
「もともとのルーツは島根県にあるようです。島根県は小豆の産地で、あんこを使った出雲ぜんざいが有名だったり、松江市では和菓子文化があったりと、あんこを使った食べ物が多い。その中であんこを使った餅を葬儀や法事の際に配る風習が根付いたようです。その文化が島根から出雲街道を伝って真庭、津山、美作、新見などに流れてきて、山陰に近い岡山県北にも広がったのではないでしょうか当初は親せき総出で餅つきをして配っていたのですが、その作業も手間がかかることから、次にあんこ入りの酒蒸しの法事まんじゅうが作られるように。さらに戦後にパン食文化が広まり、手軽に手配できる法事パンを準備するようになったようです。法事パンは法事の時だけでなく葬儀の時にも配るんです。故人の近親者が通夜などにお供えとして大量の法事パンを持ってきて、それを帰りに手土産として配ります。津山市内では法事パンをしている店にはのぼりが立っているほどメジャーな存在。知ってるパン屋さんに聞いてみたのですが、だいたい40個1セットで注文されるようですよ」と教えてくれました。県南住まいの私としては初耳の情報ばかりです!
どこでやってるの?
さて、県内のどの辺りまでその風習があるのか気になりますよね。そこで県内27市町村の人に調査。その結果が左の地図の通りです。やはり県北が中心ですね。高梁市や井原市のあたりでもしているのが意外なところです。
「法事パン」の今昔。
津山の老舗『フジタパン』に実情を聞いてみた。
実際に法事パンの注文を受付ける店にも話を聞いてみたい。そこで、創業100年を越える津山の老舗『フジタパン』に話を聞きました。「父親の代から受付けていたというから、40~50年前からやってるかなぁ」と語るのは3代目の藤田宏明さん。「あんこ餅は持って帰るのも重たいから、軽くて分けやすいあんぱんになったって聞いてる」という新情報も!確かに、餅とパンじゃ重さがだいぶ違いますもんね。法事だと日程が分かった段階で注文が来るそうで、少なくとも前々日までには注文が来るのだとか。先の藤井先生の情報通り、こちらでも40個単位で注文が来るようで、40個のパンが入る箱も用意されています。
「一番人気のパンは?」というと、粒あんのあんぱんを抑え、こしあんのあんぱんなのだそう。そのほかメロンパンも人気だとか。その40個のパンを箱に詰め、のしを巻き、表書きに「御供」、贈り主にお供えする人の名前を書けば「法事パンセット」の完成です。とても大きな箱になるのでどうやって持って帰るのかと聞くと、みんな風呂敷を持参してそれに包んで持ち帰るのだとか。なるほど~。最近はスーパーやコンビニで注文する人も多いといいますが、「うちはパンの生地が柔らかくって、子どもからお年寄りまで人気なんです。メーカーを含めいろいろなパン屋さんからのパンが供えられるけど、土産に分けられる時にうちのパンが入ってたらうれしいって言われるね!」と笑顔で語ってくれました。確かにお土産でいただいたあんぱん、柔らかかったです! 店頭には「法事用パン承ります。」の案内もあり、日常に法事パンが当たり前にある様子を伺い知ることができました。
全県下でパンを販売する『岡山木村屋』にもヒアリング。
岡山県全域でパンを販売している『岡山木村屋』にも聞いてみました。県内の販売状況を知る販売部長に聞くと、「うちでも新見市や真庭市北房、津山市など県北エリアを中心に注文がありますよ」とのこと。『岡山木村屋』は、粒あんぱん、こしあんぱん、桜あんぱん、けしぱんと、小豆あんぱんだけでも数種類あり、さらに白あんぱん、グリンピースのうぐいすあんなど、あんぱんと呼ばれるパンが種類豊富! その中から好きなパンを選んで40個単位で注文があるのはここでも同じみたいです。
「法事パン」の思い出あれこれ。
県内27市町村の人に法事パンについてリサーチしましたが、その中でこぼれ話を少し。法事パンでよく選ばれるのは、由来からみてもあんぱんが多いのですが、そのほかにもジャムパン、クリームパン、最近ではくるみパン、チョコレートパンが入っていることもあるようですよ。「真庭市北房地域では、フルーツパン派も」(真庭市在住の人より)あるそうです。購入先は、パン店はもちろん、スーパー、また今どきなのはコンビニで注文する人も増えてきているということ。また、法事の際の土産について、法事パン以外に、あんこを挟んだどら焼きを持たせるというところもいくつかありました。「緑と白のおもちを出したりもする」(西粟倉村在住の人より)、「井原市内では、合併前の旧井原市内でまんじゅうを作る和菓子屋が多いせいか、まんじゅうを配ることが多いが、旧芳井地区ではパン屋さんで注文し、パンを配ることが多い」(井原市在住の人より)という情報も。意外に法事土産には地域性が出るのかもしれませんね。「法事パンのお供えは以前より少ない。お供えがパンから菓子、お金に代わってきている」という声もありました。
あなたの周りではどうですか? 法事パン、今後も注目していきたい食文化ですね!
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