※「福福饅頭」は閉店しました。
Season1 第九話/福福饅頭(岡山市)の福福饅頭とミルクセーキ
東京から岡山に移住してきたライターが、まだ食べたことがない、岡山で愛されているグルメを求めて食べ歩き、行きつけにしたいお店を開拓します!
突然ですが、皆さんは小麦粉を焼いた生地の中にあんこが入っている、丸いあの和菓子をなんと呼んでいますか? ワタクシが生まれた宮城県では「おやき」、数年前まで住んでいた東京では「今川焼き」と呼んでいました。ほかにも「大判焼き」や「回転焼き」、「太鼓まんじゅう」などとさまざまな名称で呼ばれているこのお菓子は、ここ岡山でもソウルフードとして長年愛されているようですね。久々に食べてみたいな~と思って調べたところ「大判焼き」に加え、夏季限定で出しているかき氷が有名なお店があると分かり、さっそく岡山市北区表町の千日前商店街にある『福福饅頭』を訪れました。
コインパーキングにクルマを停め、歩いてお店にたどり着いたときにはすでに汗だくになっていたので、まずは冷たいかき氷が食べたくなりました。かき氷は10種類以上のメニューがあり、かなり迷いましたが、その中で一番人気という「ミルクセーキ」640円をオーダーしました。
ミルクセーキ味のかき氷ってどんなだろう? とあれこれ想像していたらグラスにてんこ盛りに盛られた「ミルクセーキ」が運ばれてきました。見た目は、いわゆるかき氷というよりもアイスとシェイクの中間ぐらいの感じでしょうか。さっそくスプーンですくって食べてみると、滑らかなバニラアイスの中に細かい氷が入っているような口当たりで、さっぱりした甘さが広がります。これは今までに経験のない食感と味ですね。「材料は卵黄とコンデンスミルクだけで、そこにかき氷を加えて一気に混ぜ合わせています。コンデンスミルクは私の父である先代の頃から同じメーカーのものしか使っていません」とご主人。素朴でどこか懐かしい味わいですが、絶妙なコクもあり、毎年登場を待ち焦がれる人も多いというのがよく分かる涼味スイーツでした。
「ミルクセーキ」で、すっかりクールダウンしたので、お店の看板メニューでもある「福福饅頭」110円の赤あんと白あん各1個ずつを注文しました。
この暑い夏の時期でも買い求めるお客さんが絶えない「福福饅頭」は、表面の生地はパリっと香ばしく、中はモチっとしていてふんわり柔らか。たっぷり入ったあんこは、赤あんは濃厚で、白あんはさらっとしており、どちらも豆の食感が残っていますが、柔らかくて優しい甘さです。
「赤あんは北海道産の小豆を、白あんは白インゲン豆の一種の『大手亡』を使っていて、6時間かけてじっくり煮ています。生地の粉は、焼く前にふるいにかけて空気を含ませることでふわっと柔らかくなるんです」とご主人は「福福饅頭」へのこだわりを話されます。お店では、通常よりひとまわり大きい特注の焼き器を使用しているそうで、食べ応えも充分。また、冷めてもおいしく食べられるようにと、生地の耳の部分をひとつずつ切り落としているそうです。
「福福饅頭」を食べ終わったところで、ご主人に「これは岡山では何と呼ばれているんですか?」と聞いてみました。「この辺りでは『ふーまん』と呼ばれていますね。焼く時に上の生地と下の生地をべたっとくっつけるから『夫婦饅頭』とも呼ばれていて、それを略して『ふーまん』になったようです」と教えてくれました(諸説あり)。「福福饅頭」の略ではないんですね?
あつあつの「ふーまん」を食べたら、また冷たいものが食べたくなり「宇治ミルク金時」の普通880円を注文しました。注文するときに「小にしますか」と聞かれ「いえ、普通でお願いします」と言ったのですが、運ばれてきた「宇治ミルク金時」を見てビックリ! これはまるで特大サイズです。先代の頃から、かき氷は大盛りが定番だったらしく、あまりの大きさに食べれない人がいたためにあとからいわゆる普通サイズの小をメニューに加えたんだそうです。
おかみさんに「かき氷のてっぺんの空洞にまわりの氷を押し入れてから食べてください」とレクチャーを受けてから、かき氷を食べ始めました。なるほど、そうすることで氷が崩れずに食べ進めることができるんですね。かき氷の氷は雪のように細かくふわふわで、爽やかな味と香りの「宇治」と「ミルク」の甘味、「ふーまん」に入っているあんこの「金時」の三種類の味が絶妙なハーモニーを奏でます。
最初はあまりの大きさにビビリ気味でしたが、あまりのおいしさに一気に食べてしまいました。「宇治のかき氷には、本抹茶を使用しているのですが、色合いと風味を兼ね備えたオリジナルの本抹茶を、同じ商店街のお茶屋さんにブレンドしてもらって仕入れています」とご主人。かき氷の氷も商店街の氷屋さんから仕入れている純氷を使用し、かき氷機の刃を一番薄く調整することで、ふわふわのかき氷ができるようです。ご主人は氷が雪のような細かさにならなくなったら、すぐに刃を交換するそうで、普通のお店では3年ぐらい持つ刃も、ここでは1シーズンに2枚も替えているそうです。
店の奥にある昭和の香りが漂うイートインスペースには、平日だというのにひっきりなしにお客さんが訪れ、かき氷を注文していました。土日には涼を求めるお客さんで入口に大行列ができるそうです。かき氷は5月頭から9月末ぐらいまでの夏季限定の提供となっています。
お客さんが途切れたときを見計らって、ご主人の南道文さんにお話を伺いました。「創業は昭和32年で、今年で60年になります。私の父が広島県福山市で創業し、父は叔父に福山店を任せて、岡山でも店を開店しました。『福福饅頭』という屋号は字のごとく、『幸福が多々舞い込むように』という想いで名付けたと聞いています。父が店をやっていた頃の千日前商店街は、映画館が5軒、パチンコ屋が3軒あり、飲み屋さんもたくさんあった一大歓楽街でした。映画を観に行く前にここで『ふーまん』を買ったお客さんが映画館の中で食べると、館内に『ふーまん』の匂いが広がり、その匂いにつられて映画帰りに『ふーまん』を買いにお客さんが大勢来られました。父は従業員に『映画の終わる時間を聞いてこい』と言って、映画の終わる時間に合わせて焼きだめして売って、それでひと稼ぎさせてもらったと言ってましたよ(笑)」。
ご主人は元々お店を継ぐつもりだったのですか?「いえ、父も私に『継がなくていい』と言っていましたし、私も18歳から大阪で仕事をして家庭も持っていたので継ぐつもりはまったくありませんでした。しかし、父が突然亡くなり、その後は母が3年ほど切り盛りしていたのですが、今から17年前に私が岡山に戻り、店を引き継ぎました」。ご主人は先代からはレシピなど細かいことは何も教わらなかったようですが、子どもの頃からおやつに「ふーまん」や「ミルクセーキ」を食べていたことで、舌が味を覚えていたそうです。それからご主人がさまざまなこだわりを持って味を追求してきたことで、「福福饅頭」という老舗の看板が守られてきたのです。
近年は台湾や韓国など外国からのお客さんも多数訪れる『福福饅頭』
古くから岡山の人々に愛され、懐かしい味を提供し続けている『福福饅頭』には、近年、台湾や韓国など外国からのお客さんも多数訪れているそうです。ご主人は「先のことはまだ分かりませんが、元気なうちはがんばって続けたいと思っています」と話されました。ごちそうさまでした! これからも「食べて福福 うまさ大判」な「ふーまん」を食べに来たいと思います。(ライター:カタオカキヨシ)
Information
福福饅頭
- 住所
- 岡山市北区表町3-11-80 [MAP]
- 電話番号
- 086-224-1340
- 営業時間
- 10:00~18:30
- 休み
- 水曜日
- 席数
- 16席
- 駐車場
- なし