海陸でつながるゆかりの地で「異国」の趣に触れる。
岡山県に隣接する兵庫県西端に位置し、日生同様牡蠣養殖が盛ん。南西部にはかつて岡山県の一部であったことをうかがわせる「備前福河」の名も残る、ゆかり深き町・兵庫県赤穂市。
南端の道をゆっくりと走ればすぐそこに瀬戸内海の多島美が広がるが、数多の島々が眼前に迫るあの見慣れた風景とはやはりどこか違った趣が漂い、それがまたそこはかとなく心地よい開放感に浸らせてくれる。
そんな赤穂ならではの、のびやかな海景を堪能できるのが、「日本の夕日百選」にも選ばれた赤穂御崎に鎮座する『伊和都比売神社』。
赤穂の祖神としていにしえから格別の尊崇を受け、特に航海安全や大漁祈願で厚く信仰されてきた赤穂随一の古社だ。
もとは近隣にある「畳岩」という岩礁にまつられていたものが天和三(一六八三)年にこの地に移されたとされ、境内際の鳥居は海上から参拝する人のために建てられたとも言われている。
古くから姫神信仰が盛んで縁結び祈願に訪れる人も多く、鳥居左手には恋人の聖地にも認定された二人掛けベンチ「一望の席」も。
穏やかな海辺の境内をうら若きカップルたちが寄り添い歩くさまをほほえましく眺めつつ、ふといにしえの恋人たちの姿を空想してしまうのは、一千年超もの間に刻まれてきた万別の思いが、この地に今なお深く宿り続けているからだろうか。
立ち寄りスポット
伊和都比売神社(いわつひめじんじゃ)
伊和都比売大神を祭神とする赤穂随一の古社。航海安全、大漁にご利益があるとされるほか、古くから姫神信仰が盛んで縁結び祈願に訪れる人も多い。眼前に瀬戸内海を望む境内は赤穂随一の絶景スポットとしても人気。
回船で栄えた浦の歴史をまとう潮風に誘われて「塩の国」へ。
赤穂御崎から車で10分余り北上すると、都市景観大賞にも選ばれた坂越(さこし)の街並みにたどり着く。
坂越は中世にはゴマやイワシなどの輸送記録が残る浦で、江戸以降は回船業によって発展。赤穂の塩田で作られた塩や内陸部の薪、米などは千種川を経由して運ばれたため、高瀬舟の発着場と港を東西に結ぶ「大道」と呼ばれる坂道沿いに風情ある街並みが続いている。
また、大道の入口には坂越浦の行政執務所として機能した『旧坂越浦会所』が平成の復元を経て残存。藩主が立ち寄った折に使用した『観海楼』などを自由に見学することができる。
その『旧坂越浦会所』から北東に向かって海沿いを五分余り歩いた先の山麓に鎮座するのは、聖徳太子ゆかりの豪族・秦河勝をまつる『大避神社』。
拝殿脇の絵馬堂に掲げられた色彩豊かな船絵馬の数々は坂越が海上交通の要として栄え、航海安全の信仰を集めたことを今に伝えている。
立ち寄りスポット
大避神社(おおさけじんじゃ)
創立時期は不明。聖徳太子ゆかりの豪族・秦河勝の没後、地元の民がその霊をまつったことが始まりとされる。現在の本殿や拝殿は18世紀に再建されたもの。秋の祭礼「坂越の船祭」は国の重要無形民俗文化財。
赤穂の海にはぐくまれた地の利は、食にも宿にも。
坂越湾は瀬戸内海でも波が少なく穏やかなことで知られる。漁場の規模は決して大きくないがそのぶん、良質な植物性プランクトンが豊富で、なかでもここで獲れる牡蠣のうまさは格別だ。
そんな地元自慢の牡蠣を心ゆくまで味わいたいなら、ランチも味わえる居酒屋『五月』の「五月のかき木箱」がおすすめ。
盆上に並ぶ二十一の小鉢はデザート以外すべて牡蠣料理で、これ目当てにわざわざ県外から訪れる人も少なくない。
そして赤穂の海、町、グルメをぞんぶんに堪能した一日の締めくくりは、地元屈指の人気ゲストハウス『今井荘』へ。
かつて海の家としてにぎわった建屋を沖縄在住のアーティスト・梅原龍氏がリノベーションした空間は、極上の自分時間を約束してくれる。
立ち寄りスポット
赤穂野菜と地魚の店 五月(めい)
赤穂産の契約農家から仕入れた野菜をはじめ、地元産の新鮮な食材を取り入れた創作居酒屋。内外装には映画『となりのトトロ』の世界観が投影され、ジブリ映画にインスピレーションを受けた独創的なメニューも楽しめる。
立ち寄りスポット
今井荘
1953年に海の家併設の民宿として創業し、現在は三代目夫妻が一日2組限定のゲストハウスとして運営。眼前の絶景もさることながら、梅原龍氏プロデュースによる空間も秀逸で、非日常感に満ちたひと時を味わわせてくれる。
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