岡山メルパ 福武 孝之館長
映画業界20年、老舗映画館を切り盛りする名物館長。映画が持つ「観ることで、自分の世界が広がる」魅力を広めるべく、多彩なイベントを展開。ジャンルや制作者にこだわらない、テキトーな鑑賞が映画愛を高める秘訣。映画が好き過ぎて、あこがれのターミネーターに変身。特殊メイクがんばりました!
「続・深夜食堂」
映画において“食”は重要な役割を果たすものである。
なぜなら食べることはすなわち生きることだからだ! 少々哲学的に聞こえるかもしれないが、我々にとって食べるという体験はとても身近なもので、スクリーンの向こう側で起こる物語を一気に自分のことにしてくれる効果がある。また、登場人物が何を食べているのか、どんな食べ方をしているのかで、その人物像を瞬時に理解させてくれる。だから優秀な監督は巧みに“食”のシーンを織り交ぜてくるのだ。
映画によっては“食”のワンシーンが一番心に残る場合もある。私にとっては以前も紹介したが、『ダーティ・ハリー』(1972年)のホットドッグのシーンである。私はホットドッグをかじりながら44グナムをぶっ放すハリー刑事の姿に寝食を削って悪を駆逐する真のヒーローをみたのである。
他にも一杯のかけそば』(1992年)では、一杯のかけそばを家族3人で分け合って食べる姿に家族愛が描かれていて、『火垂るの墓』(1988年)では、戦争は常に弱者にしわ寄せが行くことを、缶に入ったドロップのくだりで感じさせる。逆に「マリー・アントワネット」(2007年)ではマカロンに象徴される飽食で、庶民感覚とズレてしまった悪政を表現している。
映画では食を通して、家族愛でも戦争でも政治でも、簡潔に集約して表現することができるのだと思う。そこで11月5日(土)から公開される『続・深夜食堂』をご紹介したい。
食堂を舞台に繰り広げられる人間ドラマなのだが、“深夜”というところがミソである。営業時間は0時~7時頃まで。こんな時間に食事をする人はワケありに決まっている。つまり店に来る客すべてに最低でも小さなドラマがあるのだ。居酒屋なら酒を呑むため、すなわちストレス解消に来るのだろうが、“めしを食う”ということは生きるために来るということだ。
本作は3部構成で語られているが、1部は喪服で深夜に焼肉定食を食べにくる女。2部は焼うどんが好きな蕎麦屋。3部は詐欺にあった老婆が店のオススメの豚汁定食を感極まって食べるお話(オススメといってもメニューは豚汁定食しかないのだが)である。
どれも驚くほど引き込まれる展開が待っていて、3つのメニューが無関係ではない、いやむしろその食事に全てが凝縮されていると言ってもよいと思うのだ。
私はこれぞ“食”と人間ドラマが連動した映画であると思い、「続・深夜食堂」を皆さんにオススメしたいのだ。この映画を観てもお腹いっぱいにはならないが、心いっぱいにしてくれることは間違いない。もちろんお代は頂戴します(笑)
そして最後に言いたい!“食”のシーンを雑に描いている映画は“DS”だ。(駄作)
私は、コーヒーの入っていない紙コップで飲んでいるフリをしているようなドラマは許さないのである!(←何のドラマかピンときた方は気が合いますな!)
上映情報
- 『続・深夜食堂』
- 監督:松岡錠司
出演:小林薫、多部未華子、佐藤浩市、オダギリジョーほか - 11月5日(土)より岡山メルパほかにて公開。
岡山メルパ館長 福武孝之