岡山メルパ 福武 孝之館長
映画業界20年、老舗映画館を切り盛りする名物館長。映画が持つ「観ることで、自分の世界が広がる」魅力を広めるべく、多彩なイベントを展開。ジャンルや制作者にこだわらない、テキトーな鑑賞が映画愛を高める秘訣。映画が好き過ぎて、あこがれのターミネーターに変身。特殊メイクがんばりました!
「タイミング~種まく旅人編~」
私は果物の中で一番モモが好きである。もちろんモモとは個人的に“白桃”を指すのだが、岡山在住のこの私ですら、なかなか口にすることはできない高級品である。その素晴らしさを例えるならば、「“モモ”で1本映画が撮れる!」くらいなのだ。
えっ!? できた!?
ありそうでなかった「桃映画」が公開されるのである。
『種まく旅人~夢のつぎ木~』10月22日(土)岡山先行公開! である。昨年の夏に岡山県赤磐市を中心に撮影された映画がついに公開になるのである。
え!? 去年の夏!?
ちょっと公開が遅くないか!? そうなのだ、本編はずいぶん早く完成しているのに、満を持しての公開なのである。ところが、この1年余りの歳月が絶妙な効果を及ぼしているのである。もちろん映画は鮮度が重要である。しかし、公開のタイミングは鮮度より優先されるのだ。
『種まく旅人~夢のつぎ木~』の高梨臨さんと斎藤工さんをみれば、今年になっての大人気ぶりはスゴイではないか!? この1年でビッグスターが超ビッグスターになっている。正直言って逆のパターンもあるわけで、『種まく旅人~夢のつぎ木~』には追い風が吹いている!
そして正に現在、農業に日本社会が注目している最中、この「種まく旅人」シリーズは、第一次産業を応援する映画なのだ。更には家庭菜園やガーデニングなど、一時的な流行に終わらず一般家庭に完全に定着しているではないか。つまり、今の日本の社会問題でありながら、自宅の庭で野菜や果物を育てる体験をしている人にとっては、とても身近な物語なのである。
この作品は岡山のモモ農園で働く主人公と農林水産省の職員が織りなす人生劇場なのだが、植物を丹精込めて育て、その収穫を得ることの喜びや厳しさは、ストレートに多くの人を共感させ、感動を呼ぶだろう。今、観るべき映画、それが『種まく旅人~夢のつぎ木~』なのである。まるで映画の宣伝のようなことを書いてしまったが、今回のコラムは公開のタイミングが映画のヒットには最も重要であると言うことを書きたいのである。
タイミングを間違えてメチャコケした作品のことは書きにくいので、タイミングを変えたことによって大成功した作品の話をすると、例えば『チャーリーとチョコレート工場』(2005年)だが、もともと夏休み映画として7~8月に公開が予定されていた。しかし、その内容のアクの強さから「こんな映画、夏休みのファミリーが観るわけないだろう!」と言ったとか言わなかったとか・・・。そして9月の公開になったのである。ところがこのタイミングは夏休み期間とは違って競合が少なく、“チャリチョコ”の独壇場となったのだ。また、夏休み公開でないことが子ども映画の匂いを消し、大人も集まる理想的な興行となったのである。
更に古いところでは『クリフハンガー』(1993年)がそうだ。雪山を舞台に当時大人気のアクションスターであるスタローンが活躍する山岳アクション巨編である。これも当初は夏休みを予定していた。しかし様々な大人の事情が重なり、お正月映画へ先送りされたのである。
通常鮮度を落とした公開は命取りのはずだが、これにより『クリフハンガー』の予告編は夏前から正月までの長期間、映画館にかかることになったのである。更にはこの予告編にはちょっとした仕掛けがあって、主演の大スターであるスタローンの紹介がほとんどないのだ。観客は逆にチラチラと映っているスタローンに気付き、なんで“「主演!シルベスター・スタローン!!!」”とでないのだろうと場内がザワつくくらいだった。
つまりスター押しでなく、内容押しだというメッセージのこもった優秀な予告編がヘビーローテーションで展開されたのだ。満を持して公開された『クリフハンガー』は言うまでもなくその正月興行の全てを持って行ったのである。そもそも極寒の雪山が舞台なのだから夏じゃないだろう!という正論もある(笑)。
つまり、つまり、恋も映画もタイミングである。
世の中、タイミングを変えれば、いくらでも結末を変えられるのだ!
あなたがこのコラムを読むタイミングもベストであることを祈るのみである。
作品情報
- 『種まく旅人~夢のつぎ木~』
- 監督:佐々部清
出演:高梨臨、斎藤工 他 - 10月22日(土)より岡山先行公開!!!
岡山メルパ館長 福武孝之