《菱川高虎×BMXフリースタイル・フラットランド》大舞台でこそ実力を発揮する、天才肌の若きライダー。
人懐っこい笑顔を見せながら、さっそうと大技を決めてみせる菱川高虎くん。BMXフリースタイル・フラットランドにおいて、競技歴数年で今や世代トップクラスに。本番に強く抜群のスター性を発揮している若きライダーにインタビュー。
周りを驚かせる大技を引っさげ、さらなる高みへ。ここ一番の勝負強さに注目。
2019年より世界選手権がスタートし、多くの日本人が世界で活躍している種目のひとつ、BMXフリースタイル・フラットランド。平らなスペースで、まるでサーカスのような芸術的な動きを披露し、難易度や独創性を競う。この種目において、将来が期待される若きアスリートが岡山にいる。
それが、現在小学5年生の菱川高虎くん。彼がBMXに出合ったのは、2年生の終わりごろ。小学校に入ると同時に空手を始めたそうだが、父親がBMX好きということもあり、百間川での体験会に参加したときにBMXに心を奪われた。「かっこいい。あんな技ができるようになりたい」とBMXにのめり込んでいった。だが、早速BMXを手に入れたものの、才能が開花していくのはまだまだ。最初は週末に家の前で乗り、月に1回の練習会に参加するくらいだった。そんな日々の中で、彼の意識が変わる大きな出来事がふたつあった。ひとつは、BMXの大会「FISE広島」。世代が近い選手のパフォーマンスを見て、強い刺激を受けた。そしてふたつめが、2019年3月に滋賀県で行われた大会に出場したとき。予選は通過できるだろうと臨んだが、大会への出場自体が初ということもあり、結果は予選敗退と惨敗に終わった。スポーツをしていて、悔しくて泣いたのはこれが初めてだった。近い世代の中で、今の自分のポジションがはっきりと見えた。「もっともっと練習しなきゃだめだ」。両親も口をそろえて「マイペース」と言う高虎くんが、そのふたつの経験を通して明らかに取り組む姿勢が変わった。それからは毎日練習を行い、ときにはクルマのライトを頼りに夜遅くまで練習することもあった。そんな高虎くんの様子を見て、父親の一真さんは熱量に応えるように行動に出る。岡山市南区にある『トランポリンハウスNORI×NORI』に、一部をBMXの練習スペースにしてもらえないかと直接頼み込んだ。これに快諾を得て、平日でも満足に練習ができる拠点を確保し、毎日のように練習場に通った。すると、練習の成果が実り、ついにその才能が開花し始める。2019年9月、岡山で開催された「全日本選手権」に初めて出場。予選通過を果たし、さらには大会で4位に入る。これには、本人も両親も「まさか」とびっくりしたという。続く11月に行われたU12の大会でも上位に入り、年間ランキングがあっという間に5位まで上昇。短期間で驚くほどの成長を遂げて見せる。
実力をめきめきと伸ばす中で、満を持してフラットランドの代表的な大技「DECADE」の習得に臨んだ。最初に挑戦したときは「こんなのできっこない」と思ったそうだが、指導者を求めて県外にも練習にくり出し、取り組み始めてから半年かけて、ついに初の成功を果たす。だが、その成功からわずか数日後、鎖骨を骨折。数カ月を棒に振ってしまうことになる。ケガから復帰してもまったく成功させることができない日々が続いたが、迎えた父の日。さっそうと決めて、父に「プレゼント」と軽く言ってのけた。ブレイクダンスをしている兄に憧れを持ち、「自分もあんな風に目立ってみたい」という高虎くんだが、こういったスター性は兄に引けをとらない。大会でも、練習での成功率が低い技に挑戦し、「練習では決められないのに、本番ではひょいっとやってのける」と両親も首をひねるほど。そんなエピソード通り、2020年の12月に行われた「ジャパンカップ」では、ここで大技を決めないと勝てないというプレッシャーのかかる場面で見事決め、過去最高成績となる2位に入ることができた。
彼の強みは、BMXのリアとフロントの両方の技を選択できること。多くのライダーが、どちらかに偏りがちなスタイルになるが、このオールマイティなところがひとつの持ち味。両方できるゆえに、動きに幅ができ、パフォーマンスに流れが生まれてくるのだ。また、大人でないと決められないような難易度の高い技を多く持っているのも強み。これからの大会に向けて同世代を驚かせるような技をひそかに仕上げているそうだ。今後の課題は、それらの成功率や精度を上げていくこと。だが、きっと本番では、たいしたことでもないように、軽々と決めてみせるのではないだろうか。
(タウン情報おかやま2021年6月号掲載より)
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