プロのジャズ・ミュージシャンを多く輩出してきた、伝説的な老舗ライブハウスの新たな挑戦。
~表町商店街を音楽で活性化させたい!①~
表町商店街・千日前地区に誕生した『岡山芸術創造劇場 ハレノワ』。
すでに6月にプレオープンし、トライアル月間の7月は小劇場での舞踏公演を皮切りに、中劇場での伝統芸能の舞台、大劇場でのダンス教室のミュージカルと、市民公募プログラムを続々展開。
目前の9月1日のグランドオープンに向けて、ますます盛り上がってきましたね。
さて、『ハレノワ』のある表町商店街の南エリア(表町3丁目)ですが、ここは古くから楽器店やライブハウスなどが集う「音楽の街」としても親しまれてきました。
そして商店街を音楽で活性化させようと、さまざまなムーブメントが沸き起こっています。
その仕掛け人のひとりが老舗ジャズクラブ『LIVEHOUSE BIRD』の3代目マスターでジャズ・ベーシスト(コントラバス奏者)の赤星敬太さんです。
▲5月は赤星さん(右)のほかサックスの佑源英俊さんとトロンボーンの大月宏史さんが演奏。『岡山天満屋』前の路上ライブでは、女性客から突然リクエストが入り、即興演奏も!
「『ハレノワ』は、とてもいい刺激になってます。コロナ禍でも、この周辺の店やアーティストたちは『ハレノワ』ができるから、なんとか頑張ろうやって励まし合ってきました。地域のためにできることがあれば、『ハレノワ』と一緒に!と思います。人と人のコミュニケーションに勝るものはないので」と赤星さん。
「ジャズは、知らない人どうしでも、その場ですぐセッションして演奏をぶつけ合えるのが醍醐味。ジャズ独自の共通フレーズさえ身につければ楽しめます。居合わせたお客さんがその瞬間を一緒に楽しむ一体感は最高。ジャズは強力なコミュニケーションツールなんです」。
赤星さんは表町商店街を音楽で彩りたいと、路上ライブを定期的に開催。
『BIRD』も音楽を介した交流サロンになればと考えています。
『BIRD』は1981年創業。
岡山のジャズプレイヤーたちの登龍門的な存在で、多くのプロミュージシャンを輩出してきました。
初代マスターの故・岡崎直樹さん(1950年生まれ)は、伝説のアルトサックス・プレイヤーとして今も語り継がれています。
岡崎さんは、中学入学と同時にブラスバンドでアルトサックスを始めて、ジャズに興味を持つように。
高校・大学ではビッグバンドに参加。大学時代はライブハウスで夜な夜なジャズの腕前を磨き、卒業後はキャバレーのオーケストラでプロ入りしたのだとか。
ライブでのっている時は、延々とアドリブを吹きまくっていたという岡崎さん。
商業的なことを嫌い、自身のCDも制作しなかったのですが、ステージに立った時の貴重な音源が残っていて、店内で聴かせてもらうこともできます。
そして、赤星さん(1971年生まれ)は、約25年前から岡崎さんと店のステージに立たせてもらっていたとか。
「岡崎さんは寡黙でしたが、音楽のこととなると厳しくて怖かった。まさに職人でした。国内外のプロのミュージシャンがここに来て、なんでこんなすごい演奏をする人が岡山にいるの?って、みんなのけぞって帰っていきましたね(笑)」。
当時の『BIRD』はマスターのお眼鏡にかなった人だけがステージに上がることができ、その分観客にも信頼があったといいます。
ただ、年末だけは忘年会のセッションで初心者も参加できたとか。
「マスターの前でいい加減なことはできない」。
そんな緊張感がミュージシャンを成長させたのかもしれません。
ちなみに、大学生アルバイトだった多田誠二さんと川嶋哲郎さんは、カウンター越しに岡崎さんの演奏を聴いてサックスの基礎を磨き、後に日野皓正さんのバンドで活躍するなど、日本を代表するサックスプレイヤーとなっています。
「岡崎さんはただジャズが好きで、ここで本物のジャズをやりたかったんじゃないですかね。僕もジャズという文化そのものを大事にしたいと思ってる。今の店では、どんな人でも幅広く演奏できる日も作っています」。
赤星さんはバンドを組んでいた高校時代からジャズに憧れ、ロックのほかジャズ風の演奏にもトライ。
岡山大学ではジャズ研究会に入り、存分にセッションを楽しんでいたとか。
今では同研究会の後輩たちがジャズ修業も兼ねて『BIRD』のアルバイトに入ってくれています。
実は、多田誠二さんも同研究会の大先輩なんです。
岡崎さんは2010年1月にガンで亡くなる直前まで、酸素吸入器を付けて店に出ていたそうです。
創業当初からの岡崎さんのハウスバンド「Jazz Machine」は今も健在。
常連客が二代目マスターを継いだ時代を経て、赤星さんを含むハウスバンドのメンバー有志が家賃を出し合い、店を運営した時期もあったといいます。
「2019年頃から僕が本格的に店のライブ・スケジュールを組むようになって。その時、僕は公務員だったんですけど、ここ、このままだと潰れちゃうなぁと思った。それで、やりたいことを全力でやろうと覚悟を決めて、早期退職して勝手に店を継ぎました(笑)」。
ニューヨークのジャズクラブに1週間くらい通い詰めて、出演を直談判したこともあったそう。
2019年からは『BIRD』が実行委員会事務局として、10月第1土・日曜に「おかやまジャズストリート」を開催。
1000円の一日券で、『BIRD』や周辺のジャズ喫茶・ジャズバーなど数軒でのライブと、無料の路上ライブを巡りながら街を楽しむイベントで、生前、岡崎さんもやりたいとつぶやいていたとのこと。
ジャズは、まさに「交流する音楽」。『ハレノワ』のある街にぴったりです。
※参考資料『101匹目のジャズ猿』(2017年発行)
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