暮らしのいいものをセレクトしている『ハレマチ特区365』と『オセラ』が、岡山をはじめとする瀬戸内の企業・団体・職人・作家など「ひと」に着目し、そこから生まれる魅力あふれる商品とその思いをご紹介します。
「作り手」たちの意外な視点や温かい思いを知ると見えてくる、商品の魅力、新しい世界。
「昔のやり方や常識が通用せん。獲れる時期がどんどん遅くなっとる」と話すのは、笠岡市の前海で海苔の養殖ひと筋40年の妹尾孝之さんだ。父親の後を継いだ頃は、近隣に海苔の養殖業者が軒を連ねていたが、現在は『せのお水産』を含めてわずか二軒。平成の初め頃、高梁川に人口島が作られたことで、川の水によって運ばれてくる窒素やリン、すなわち海苔の生育に必要な栄養が減少。また近年は、温暖化の影響で海水温が上がり、海苔が育ちにくくなっているという。水しぶきをかぶりながらの刈り取り、昼夜問わず続けられる抄き加工など、海苔の養殖は決して楽な仕事ではない。安い外国産海苔の普及に、前述の環境変化が追い討ちをかけ、養殖業者は少しずつ廃業していった。
そんななか「腕は一割、海の状況と天候が九割」と言いながらも、孝之さんは撤退ではなく攻めに出た。広く生産されているスサビノリではなく、養殖が非常に難しいとされる岩海苔品種・壇紫菜(たんしさい)の養殖に取り組み始めたのだ。種付けの失敗を繰り返し、育苗も試行錯誤を重ねながら、10年以上かけてついに養殖に成功。国内に作り手がほとんどいない希少な海苔ゆえ「幻紫菜」と名付けて商品化した。「一年に一回しかトライできないし、毎年自然環境は変わるし、難しかったよ。でもやめたら『失敗』だけど、結果が出るまで続ければ『経験』になるからね」と愉しそうに振り返る。
孝之さんの海苔作りにかける情熱の源は「生産者として、食の安心・安全を守ること」だそう。「自分が食べている海苔が国産か外国産か意識していないかもしれないけれど、ぜひ国産を、もっと言えば地域のものを食べてほしい。作っても売れなければ産業は衰退してしまうから。そのためにも自信を持って提供できるおいしい海苔を作らないと」。2010年には、息子の祐輝さんが帰郷し、現在はともに海苔作りに励んでいる。「大変なことも前向きに、愉しそうに取り組む親父の姿があったからこそ、後を継ごうと思えました」と祐輝さん。その隣には、孝之さんの妻・三恵さんと、祐輝さんの妻・由枝さんの笑顔。彼らが丹精込めて作る海苔は、間違いなくおいしいはずだ。
株式会社せのお水産
(上段)妹尾孝之(64)・三惠(64)
(下段)妹尾祐輝(35)・由枝(35)
50数年前に初代が創業した『せのお水産』。23歳のとき2代目・孝之さんが継ぎ、現在は3代目の息子・祐輝さんとともに、家族が力を合わせて海苔の養殖、加工、販売までを行なっている。種付け方法にこだわり、県下約60軒の海苔養殖業者の中で、自社で種付けを行なっているのは当社のみ。安心・安全でおいしい海苔を届けるため、近年の環境変化に対応しつつ、新しい品種の海苔作りにも取り組んでいる。
Information
株式会社せのお水産
- 住所
- 笠岡市美の浜32-31
- 電話番号
- 0865-67-6733
ハレマチ特区365
『イオンモール岡山』の5階にある、晴れの国おかやまに息づく、ものづくりのスピリットを体感・体験できる空間。岡山県内を中心に、せとうちエリアの作家や職人、企業による雑貨、ウェア、ストックフード&器など、1000種類以上のアイテムをラインナップ。作家によるワークショップをほぼ毎日行なうスペースも常設。
Information
ハレマチ特区365
- 住所
- 岡山市北区下石井1-2-1 イオンモール岡山5階
- 電話番号
- 086-206-7204
- 営業時間
- 10:00~21:00
- 休み
- なし
- 駐車場
- 約2500台(有料)
- HP
- https://hare365.com/