あたりまえにある身近なあんなものやこんなものに、実はこんな歴史や理由があるのです…。
そんな身近にある何? なぜ?を調べます。
岡山の海~鷲羽山周辺の海編~
今年は海水浴ができず「夏に海を身近に感じられなかった…」という印象の読者も多いのでは? そこで、改めて瀬戸内の海を深堀りして紹介。地元の人に話を聞いてみると、意外と知らない事実を知ることができました。
改めて、目の前の海を知る。
知っているようで知らない瀬戸内海。
岡山県民にとってあまりにも身近な瀬戸内海。でも、目の前の海がどんな特徴を持っているか、県内の海に面した町がどんな歴史を持っているか知ってますか? というわけで、改めて岡山の海について調べてみることにしました。といっても、岡山県内でも笠岡、寄島、沙美、水島、児島、玉野、牛窓、日生など幅広いので、ひとまず瀬戸内海国立公園に指定されるきっかけになった、鷲羽山周辺の海を調べてみたいと思います。
瀬戸内海の地形・地質豆知識。
瀬戸内海国立公園を管理する環境省中国四国地方環境事務所によると、「標高133mの岬状の台地である鷲羽山は、備讃瀬戸に突出し三方を海に囲まれた地形。また標高234mの王子が岳は、山の稜線にはニコニコ岩などの巨石・奇岩があるのも特徴です。両地区とも備讃瀬戸の好展望地で、地質としては長石、石英、雲母からなる花コウ岩が多いです」とのこと。王子が岳あたりでむき出して見えるのが花コウ岩。鷲羽山のあたりも同じ花コウ岩が地質の多くを占めています。「今は鷲羽山には木がうっそうと生い茂っているけど、昔は王子が岳のようにはげ山だったんだよ」と語るのは、地元の歴史・自然をよく知る『むかし下津井回船問屋』館長の堂下さん。瀬戸内海国立公園の、特に鷲羽山で自然解説をしている「鷲羽山地区パークボランティアの会」の会長もされています。『むかし下津井回船問屋』が所有する昔の写真を見せてもらうと、確かに今より岩肌が多く見えていて、印象が違います。
また、約30万年前から1万6000万年前まで日本全土に住んでいたナウマンゾウの化石も瀬戸内海から見つかっていることから、大昔は四国まで陸続きだったと推測されています。目の前の海に水がなく、ナウマンゾウが歩いていたと思うとおもしろいですね。
鷲羽山、下津井にクローズアップ。
瀬戸内海国立公園に指定されるきっかけになった、鷲羽山。
ところで、鷲羽山はどこからその名前が付いたかご存じでしょうか。鷲の羽根のような山というのは予想がつくでしょうが、それがどの部分か分かりますか? そこで地図にイラストを重ねてみました。
一帯の地形が鷲が翼を広げた形に見えることがこれを見るとよく分かりますね。
今は瀬戸大橋と多島美を望む絶景スポットとして人気の鷲羽山。しかし、瀬戸大橋ができる昭和63年(1988年)より前からこの場所は景勝地として有名でした。昭和2年(1927年)に百景地のひとつに選ばれていたことからも、昔から景色のいい場所として有名だったことが分かります。前述の堂下館長いわく「鷲羽山展望台から見える海景色と多島美の景色のバランスがちょうどいいんですよ。高すぎても間延びするし、低くても島が重なって美しく見えない。瀬戸内海を眺めると島が点々と見える、絶妙な位置に展望台があるのが、絶景の地として評価が高い理由ではないでしょうか」。この鷲羽山の景観が決めてのひとつとなり、昭和9年(1934年)に日本最初の国立公園として瀬戸内海国立公園が指定されたことでも、その魅力が分かりますね。
目の前をのんびり走る船ですが…。
さて、ようやくメインの海の話を。堂下館長に「鷲羽山から海を見るとしたら、どの時間帯がおすすめですか?」と聞くと、「観光客の皆さんには、日の出と夕暮れの時間をおすすめすると好評ですね」とのこと。早朝や夕暮れ時の、下津井から最初の島・櫃石島に架かる下津井瀬戸大橋と、その下を走る船の姿、夕日にきらめく海…。それらの穏やかな風景は美しいですよね。実は、下津井から櫃石島までは潮の流れがきつく、のんびり走っているように見える船も緊張感のある舵取りをしながら航行しているようです。また、下津井と櫃石島の間の海は小型の船しか通れないようで、よく見ると大型船は香川県寄りを航行しているのに気づきます。ちなみに、渋川沖の海も流れが速いそうですよ。
瀬戸内海と切っても切れない下津井の歴史。
この地域の海の歴史を語るにおいて欠かせないのが、鷲羽山を含む下津井の町の歴史。目の前の海を行きかう船を監視しやすい場所にあることから下津井城が設けられ、まず城下町として発展。江戸時代後期から明治時代にかけては北前船の寄港地として栄え、宿場町、商業地としてにぎわいました。岡山県内にはほかにも港があるのに、なぜ下津井がほかの港より栄えたのか聞くと、堂下館長は、「県内のほかの港よりも南寄りで、四国からの距離が近かったのが関係あるかもしれないね」と教えてくれました。広島県の鞆の浦も確かに南寄りの港ですね。「昔は鞆の浦にあるような雁木が下津井の海沿いにあったんだけど、瀬戸大橋ができたタイミングで海沿いに湾岸道路を作るために撤去されてしまって、趣のある海沿いの風景はなくなってしまったんよな」と堂下館長。確かに昔の写真を見ると、風情のある港町って感じですね。
最後に。地元の人だから知る穴場スポット。
今回の取材で堂下館長が地元の人だから知っているスポットを教えてもらいました。それが、地元で信仰が厚い『穴場稲荷神社』。まさに穴場。鷲羽山の山並みを走る道路から下津井港へ下る分岐道付近にあります。行ってみると、連なる赤い鳥居がお出迎え。「せっかく見つけたのだからお参りしていこう!」と階段を上っていくと…奥宮までは思いのほか長い! そして岩盤をくりぬいた場所が階段になっていて、滑りそうなので足元に注意! 奥宮まで上って振り返って見える海景色もすてきです。
さらに、樹齢200年ともいわれる一本松もぜひ。田之浦港の背後の斜面に立ち、『鷲羽山ビジターセンター』のさらに先の第三古墳あたりで海の方向を見ると見つけることができます。そしてその先の東屋のある展望台からの景色も個人的には絶景だと思うんですよ。なんてったって瀬戸大橋が真正面に見えるから!行く価値がある絶景スポットだと思います。
さて、読者の皆さんは、このうちどれだけをすでにご存じでしたか? この誌面が瀬戸内海、そして鷲羽山、下津井の新たな発見になってくれるとうれしいです!!
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