降水量1mm未満の日が日本で一番多く、災害も非常に少ないことから、映画やドラマの撮影スポットとして注目されている岡山県。市街地からクルマで30分圏内に、海、山、古い街並みなどがあり、田舎の風景や島、高原など豊富なロケーションがそろっています。

「晴れの国岡山は、日本のハリウッドだね！」

そんな声が高まって、誰が呼んだか「HALLE WOOD（ハレウッド）！」。

「HALLEWOOD」の立役者であり、全国の映像制作会社が頼りにするというすご腕コーディネイターの妹尾真由子さんが、知られざるロケの裏側やさまざまなエピソードを通じて、岡山の魅力を紹介していく連載です。

《連載第11回》映画『とんび』編 ②

みなさん、こんにちは。岡山県フィルムコミッション協議会の妹尾真由子です。

先月導入編をお送りした、2022年4月8日(金)公開予定の映画『とんび』ですが、作品に携わった期間も長かったことや、新型コロナウイルスの感染拡大以降、最初の大きなロケの受入れ支援だったこともあり、私自身にとって非常に特別感を感じる作品となりました。

公開に向け、より作品を楽しんでもらえるよう、作品を通した岡山の魅力や見どころを、シリーズでお送りいたします。

「とんび編」シリーズ第２弾の今回は、ロケ地決定に至るまでのお話です。

2019年春。制作会社から「昭和の雰囲気を残した町、海の近くに飲み屋がある港町、海が見える寺など」のメイン舞台となるロケーションについての問い合わせが入ったところから映画『とんび』の支援は始まりました。

この時は当県だけでなく、瀬戸内海エリアの中国・四国地域を中心に幅広くロケ地の問い合わせをされている状況でした。

そのため、いかに監督がイメージされているものに近いロケーションをたくさん提案出来るか…。気合が入ったのを今でも覚えています。

過去に放送されたNHK「とんび」で使われた県内のロケ地情報を参考までに見せつつ、海に近い場所で昭和の雰囲気を残した町並みを中心に情報提供を行いました。

その後、脚本を書きあげる際に必要な、現場に出て見聞きしたことを反映させる作業「シナリオハンティング（略してシナハン）」を希望されたため、「Always三丁目の夕日」などのロケ地としても知られる、倉敷市玉島からスタートし、下津井、児島、牛窓、備前と県南の海沿いの古い町並みを一通りご案内しました。

与えられた時間はわずか１日。朝から飛行機の時間までいかに効率よく、イメージに近いロケーションを多く見せることが出来るか…時間との戦いでもありました。

日差しが照る中、汗を拭いながら、行く先々で、隅から隅まで時間いっぱい歩き回り、お寺の階段を登って降りての繰り返しで、最後には足がパンパンになりました。

この時監督は、頭の中でさまざまなシーンを思い描きながら、各所を回られていたんだと思います。

ちなみに私は、本作品の制作に携わるまでは「とんび」という名作について、ふわっとした内容は知っていたものの、原作もドラマもきちんと見ていなかったので、問合せがあってすべて確認しました。

シナハン以降、メールなどのやりとりを中心に必要な情報を提供し続け、その年の年末、監督含めたメンバーで、「弾丸日帰りロケハン」を実施しました。

空港に迎えに行き、古めの列車を確認するため、水島臨海鉄道からスタート！！

倉敷市玉島にある昔ラーメン屋を営んでいた空家や、「釣りバカ日誌18」のロケ地として有名な海の見える寺「海蔵寺」、NHK「とんび」のロケ地にもなった岡山市東区の西大寺五福通り、最後に宝伝港周辺を回り、この日も内容盛りだくさんで紹介して回りました。

この日はあいにく天候が悪く、「時間内に空港に送り届けることが出来るか？」とスケジュールを心配すると同時に、「夕方ごろから濃霧で飛行機が飛ばないかもしれない」という、違った戦いもありました。

その後、新型コロナウイルスの感染拡大により、ロケハンなど制作の動きがストップ。

緊急事態宣言が明け少し状況が落ち着いたタイミングの2020年夏、お盆明けから改めて制作に向けて動き始めたのです。

ここで、制作側より、メイン舞台となる瀬戸内海に面した架空の街「備後市」の町並みについて、「リアルに海沿いでなくても良い」というご意見を頂きました。

それであればと、「昭和レトロな町」として「金光町大谷地区」がピンときました。

すぐに金光町へ行き、町並みを歩きながら動画撮影し、「こんな場所もありますがイメージに合うでしょうか」と情報提供すると同時に、浅口市の窓口担当者に相談。地元団体の会長に「ロケ地候補として提案してもよいか？」とお伺いに行きました。

誘致の取組み＆目的などのほか、新型コロナウイルスの感染予防対策や、「ロケを活用したシティープロモーションにつなげたい」などの想い、ロケの際の地元住民への安心安全の確保などについて、きちんと説明させていただいた上で、「地域活性化につなげるためにロケ地としてご協力頂きたい！」とお伝えしました。

その後、地元側より前向きに検討いただける旨の返事を受け、正式に「ロケ地候補」として制作側へ提案することができたのです。

また同時進行で、それぞれの町並みの昭和30年代当時の町の様子や祭りなどの情報や写真資料を集めながら、運送会社や一軒家、倉庫、道など、時代設定に合うような幅広いジャンルのロケ地を探していきました。

各ロケ地候補の中でも有力なところはあらかじめ下打ち合わせをし、再スタートから約１カ月後のメインロケハンに向けた準備を進めました。

ロケハンの際には、後にメイン舞台のロケ地となる「金光町大谷地区」を案内！

監督のテンションが上がったのが分かり、「ここで決まるかも！」という強い手ごたえ感じました。

その後、制作側より「岡山でロケをします」とはっきりお言葉を頂き、決まったロケ地については撮影に向けた調整と準備を進めつつ、決まっていないロケーション探しなど怒涛の日々が始まったのです！

次回は、撮影に至るまでの様々な奮闘ぶりをご紹介します。

作品データ

【タイトル】
とんび

【劇場公開】
2022年4月8日(金)

【ストーリー】

昭和37年、瀬戸内海に面した備後市。運送業者で働くヤス（阿部 寛）は、今日も元気にオート三輪を暴走させていた。

愛妻・美佐子（麻生久美子）の妊娠に嬉しさを隠せず、姉貴分のたえ子（薬師丸ひろ子）や幼馴染の照雲（安田 顕）に茶化される日々。幼い頃に両親と離別したヤスにとって家庭を築けるということはこの上ない幸せだった。

遂に息子・アキラ（北村匠海）が誕生し「とんびが鷹を生んだ」と皆口々に騒ぎ立てた。しかしようやく手に入れた幸せは、妻の事故死で無残にも打ち砕かれてしまう。

こうして、父子二人きりの生活が始まる。母の死を理解できないアキラに、自分を責めるヤス。和尚の海雲（麿 赤兒）は、アキラに皆が母親代わりなってやると説き、雪が降っても黙って呑み込む広い海のようにアキラに悲しみを降り積もらすな―「お前は海になれ」と、ヤスに叱咤激励するのであった。

親の愛を知らずして父になったヤスは、仲間達に助けられながら、我が子の幸せだけを願い、不器用にも愛し育て続けた。

そんなある日、誰も語ろうとしない母の死の真相を知りたがるアキラに、ヤスは大きな嘘をついた──。

【キャスト】
阿部 寛
北村匠海　杏　安田 顕　大島優子
濱田 岳　宇梶剛士　尾美としのり　吉岡睦雄　宇野祥平　木竜麻生　井之脇海　田辺桃子
田中哲司　豊原功補　嶋田久作　村上 淳
麿 赤兒　麻生久美子　／　薬師丸ひろ子

【スタッフ】
原作：重松 清「とんび」（角川文庫刊）
監督：瀬々敬久　脚本：港 岳彦　音楽：村松崇継
主題歌：ゆず「風信子」

【県内撮影時期】
2020年11月～12月

【県内ロケ地】
・浅口市（金光町大谷、青佐鼻海岸）
・笠岡市（金浦地区、西中学校、金浦幼稚園、旧大島東小学校、原田荘、神島の道）
・倉敷市（海蔵寺、旧玉島第一病院、玉島の道、ドラム缶橋、呼松漁港、呼松神社、沙美海岸）
・瀬戸内市（旧錦海倉庫）
・備前市（柳青院）
・美咲町（柵原ふれあい鉱山公園）
・岡山市（東湯）
・玉野市（由良病院）

岡山県フィルムコミッション協議会の詳細は下記から。

【Profile】

岡山県フィルムコミッション協議会
妹尾真由子
矢掛町出身。2013年に矢掛町入庁。産業観光課での勤務時代には、ご当地キャラ・やかっぴーとともに町の観光PRを担当。2016年より岡山県観光連盟に出向。2018年より岡山県フィルムコミッション協議会の専任スタッフに

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