演劇や映画、ドラマの見方まで変わりそう。世界の平田オリザさん『ハレノワ』に降臨。
2023年9月のオープンを目指して多彩なプレ事業を展開中の『岡山芸術創造劇場ハレノワ』。
去る6月、世界的に著名な劇作家・演出家の平田オリザ氏を講師に迎え2日間に渡り、「はじめての戯曲講座」が開催されました(戯曲とは演劇のために執筆された脚本のことです)。
受講生は、戯曲に興味を持つ17歳~80代の約50名。初日前半は、広い視点から見た日本の現代演劇の役割について概論、そのあと2日目に渡りワークショップが開かれました。今回はそのレポートをお届けします。
日本社会において、昭和初期まで演劇や映画の役割は、今よりずっと大きなものでした。それは、事件や出来事、文化・風俗などを伝えるメディア的な役割を担っていたからだとか。しかし、情報が氾濫する今日では演劇の役割って何なのでしょうか?
平田さん:「日本の演劇は、1960年代までは西洋の近代演劇を直輸入していた時代で、個人の内面を表現する近代演劇、『新劇』の時代でした」。
「その後、小劇場的な『アングラ演劇』の時代になります。これは、人間は心理や感情だけではそんなにしゃべらないよ、という近代演劇を批判する運動で、社会現象にもなりました」。
「そして1990年代は、僕らが始めた「自然なやりとり」で進行する『静かな演劇』の時代です。そこには、人間は『アングラ演劇』ほど主体的にはしゃべらない、むしろ、環境にしゃべらされているという考え方があります」。
▲平田オリザ/創作した戯曲が世界各国で翻訳・出版されている劇作家・演出家。1995年『東京ノート』で第39回岸田國士戯曲賞を受賞。2011年フランス文化通信省より芸術文化勲章シュヴァリエ受勲。舞台芸術を本格的に学べる日本初の公立大学『芸術文化観光専門職大学』の学長。
平田さんの代表作『東京ノート』(1994年)は、そういった考えのもとで創作。海外でも10カ国語以上に翻訳されて上演され、高く評価されています。平田さんは、演劇は日本人が苦手な「対話」の訓練だと続けます。
「演劇というものは、対話を要求します。会話は親しい人とのおしゃべりですが、対話は他人との情報交換や価値観のすり合わせ。まず、この違いを区別することが大事です。島国に住み、農耕民族だった日本人は団結力があり、わかり合う、察し合う文化でした」。
「対してヨーロッパなどの多民族国家は、違う宗教の人が背中合わせで暮らしていて、説明し合わないといけない文化です。あまりしゃべらなくても察してもらえる日本社会は、国際的には少数派だという認識が必要です。僕は22~23歳の頃、日本人は対話が苦手だということに気づいて愕然としました」。
「脚本を書くにあたって、日本人が対話する必要があるのは、一体どういう場面なのかを考えてみてください。登場人物同士がお互いに知らない情報を対話で交換できれば、観客にも自然に伝わります」。
現代社会において演劇は、多様な価値観を「対話」で表現する役目を担っているといえそう。どうしようもない問題に直面すると、人は思いもよらない価値観が出てくる。そこで交わされるのが「対話」だといいます。
「演劇はラストが大事なんじゃなくて、序盤でどれだけひきつける内容にするか。何を書くかと同じくらい、何を書かないかが大事です。各場面の始まりの部分を決めたら、あとは観客の想像力に委ねてみる。僕は登場人物を考える時、みんながどうしたら困るかな、と考えています。畳の上では死ねない、やな仕事ですね(笑)」。
「でも、世の中には、こういうことを考える人が必要です。きれいごとだけでは進まないから。脚本を書く時、誰がどうすれば一番困るかを考えてください。
そして戯曲を書くコツはひとつ。書き始めたら、とにかく最後まで書くこと。短くていいからしっかりした構造の一幕ものを書いてみる。それでわかることがたくさんあります」。
この概論のあと、一幕ものの芝居をつくるための戯曲の設定「場所、背景、問題(運命)」を書き出してくるという宿題が出されました。
2日目はそれをもとにしたワークショップで、宿題の紙を貼り出し、みんなで面白そうなものに印をつけ、何案かに絞られました。
そしてそれぞれの設定ごとに数人のグループに分かれて登場人物を考えていきました。「登場人物の吟味が甘い」「内部の困る側と、外部の困らせる側の人物を区別しないといけない」など、平田さんは各テーブルを回ってアドバイス。
それを受けて受講者たちは内容に磨きをかけ、最後にグループごとに成果を発表して終了。平田さんの大学の講義のように濃い話と、姿勢を崩さない受講生たちのらんらんと輝く目が印象的な2日間でした。
次回は平田オリザ氏のインタビューです。お楽しみに!
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