「玉野の」よりむしろ「宇野港のラーメン店」という言葉が似合う気がするこのお店。ご主人とは同い年で長い付き合いになりますが、もう3年くらいお邪魔をしておりません。
理由はシンプルで、「玉野方面に行く機会がなくなった」ことに尽きるのですが、それは言い訳。「目的を『ラーメンを食べること』に設定してこそのラーメン道」です。「でもワタクシは、ラーメンマニアでもラーメン通でもなくて。ただのファンだしー」などと言い訳に言い訳を重ねていたら、全国に放っている50人のラーメン忍者No.38の蒼龍さんより入電が(電報ではなく電話=スマホです。ハイテク忍者なので)。いわく「拙者の担当エリアの玉野市の『萬福軒』さんに新しいメニューができたそうにござる」。それは大ニュース! じゃねえよ。「偉大なる沈黙」の通り名で巷で知られるほど寡黙なワタクシでも、こいつは黙ってられません! あのお店は「一期一会」って名称で、毎週火曜日に独自メニューを発表するという、ハイペースで開発商品を量産する恐ろしい店なんですよ。当然店主はラーメンにかける情熱がむやみに熱いの。四六時中も頭のなかがラーメンなの。尋常じゃないの。新メニューくらいじゃ驚きませんよ。「今回はかなり自信があるように候らえば…」。それも通常運転の範囲だっての。プロは自信のないものは出さないよ! 「それが超・自信があるようでして…」。では行きますか!
「で? 今日はその『超・自信のある新メニュー』を食べにきたと?」と店主(と書いてヌシ)の小野匡範さん。ワタクシと同い年です。「その情報主、バッカじゃないの?」。は? 「それね、『超・濃厚とりしょうゆ』のことよ。濃厚すぎて手間もかかるからレギュラーメニューにせんかったんよ」。ちくしょう、蒼龍の野郎。ただじゃおかねえぞ! でも、もったいないですよ。「そのかわりにな」。な? 「ちょっと濃度を変えた『濃厚とりしょうゆ』650円を作ったの。すごくおいしいよ」。あるんじゃないすか。蒼龍さん、正直スマン。さっきの「バッカじゃないの!」取り消して。あやまってよ! 「前に作った(本誌版掲載)『鶏白湯』とは比べ物にならんくらいに濃厚よ。『超』のときにはレンゲが立ったから」。天下無双の濃度ですね。「食べやすくマイルドにしたけど、それでも濃さが強くて。トッピングも極力おさえてシンプルにしてみたよ」。確かに。素材にはこだわりが? 「讃岐コーチンを使ってて。ほら、ウチは『一期一会』が魚ベースだから、魚介のイメージが強いでしょ? それを覆したくて」。『一期一会』は前述の通り、毎週火曜日限定で作られるその日限りのメニュー。玉野はもちろん岡山など各地の市場や漁師さんから仕入れた魚をベースで作られます。魚介を活用した「旬の港町ラーメン」ですもんね。
『濃厚とりしょうゆ』は、本当に濃厚な味わい。これはかなりハマりますね。お好きな方にはたまらないと思いますよ。「『瀬戸内国際芸術祭』などで多くの人が各地から来られたときに、『玉野でこんな濃厚ラーメンを食べられるとは思わなかった』って驚かれてね」。そうですよね。あ、お子さんが帰ってこられましたよ。大きくなって! 「そりゃ3年も経ってるからね」。そ、そうですね…。ところで「一期一会」はもうどのくらいの数を作ってますか? 「10年以上になるんで、単純計算で最低500種類。でも週に3種とか、1週間日替わりで毎日とかの企画もやっているんで、もっと多いかな…」。とんでもないバリエーションですね。本当に常にラーメンのことを考えてないとできないですよ。このお店に「自作派(自分でラーメンを作るラーメンファン)」の方たちが多いのも納得です。「へぇ…。『一期一会』っていうんだぁ。これなら僕が全力出しても楽しめそうだね…」と、ジャンプに出てきた生意気な転校生のようなセリフをはいておきながら、実際に食べたらリピーターになるって人も多いでしょ? 「好きになってくれるかどうかは分からんけど。いろんな方がいるから。でもいい人が多いよ」。ラーメン好きはいい人ばかり! こんなうれしいことはない!
おお、これは、スタンダードな「しょうゆラーメン(ホッ)」500円ですな。このクオリティでワンコインとはすごい。恐るべしは宇野港の底力ですよ。にしても、メニューに書いてあるこの「(ホッ)」は? 「『ホッとする』にきまっとるが」。そうですよね。確かにシンプルで「ホッと」できますよ。「ホット」で「ホッとけ」ませんね。「つまらんなー」。すんません。なかでもこのチャーシューがね。ワタクシは今どきの柔らかいチャーシューも大好きなんですが、少し歯ごたえのあるクラッシックな薄切りタイプに目がないんですよ。加えて奥深いクリアなスープ。さらに「中華そば感」を想起させてくれるナルトは、さながら戦艦大和の艦首の象徴的マークの如く! コスパも仕上がりも完璧です。ベースには豚を使ってるんですか? 「豚骨は使っておりません。とりガラのみのだしに、ニボシ、カツオ、サバ、ウルメを配合し、その日の状態(季節に天気や温度、湿度など)に合わせて調整しております」。基本は変わらずですか? 「いや、しょうゆや節を替えてバージョンアップは常にしてますよ。日々変わっているかな」。ある意味こちらも「一期一会」と言えるかも。
「みそ(濃)セット」550円+270円の820円です。「セットも昔からあって、この組合せが人気があるんですよ」。若い人にウケそうですね。「10年くらい前に、ハラペコで濃い味が大好きな高校球児が、練習終わりに必ずこれと替え玉を頼んで完食して帰ってて。彼は今ごろ何してるんだろう」。白球を追って、チャーハンとみそラーメンのセットも追っていたと! 初めてみそを食べましたけど、濃いのにスッキリしますね。「フフ。よく気づいたね。それには隠し味があって…」。あ、アレ(企業秘密)が入っているのですか。確かに風味がしますね。「あと、これも季節によって塩分やみその濃度を微調整しています。みそは3~4種類をブレンドしているからね」。チャーハンも人気ですよね。「コンスタントに出るけど、連続してオーダーされると、腕が腱鞘炎になりそうで正直な話つらいんよ!」。さもありなん。ハードな仕事です。「具材はタマゴにカマボコ、チャーシューにネギなんですよ」。あれ、お母さんいつの間に! 「息子は所用があって出て行きました」。お米もおいしいですね。「チャーハン用に米を替えているんですよ。硬くて粘りの少ないタイプです」。素晴らしいこだわり具合ですね。これには脱帽です。
お母さんから見て息子さんは? 「昔から一途で。努力家タイプですよね。『ウサギとカメ』のカメなんです」。褒めてるのかどうなんだか(笑)。でも自慢の息子さんですね。
宇野港近くの食通が通う人気店。
魚の味にうるさい地元の漁師さんも認める、地魚を生かした限定メニュー「一期一会」で注目を浴びた、宇野港やJR宇野駅から徒歩で数分の場所にある人気店。「『一期一会』だけでなくて、ほかにも強みを作っていこうと、色々とチャレンジをしているんです」と店主。讃岐コーチンを使った鶏メニューをはじめ、確かにその挑戦は「一期一会」だけにとどまらず多岐に渡っている。看板メニューの「萬福ラーメン」680円は野菜や煮玉子がのったゴージャスなメニューだが、「でーれー」780円、「ぼっけー」900円、「もんげー」1000円と量によってのバリエーションが用意されている。これは「約10年前にお客さんの要望でメニュー入り。お客さんの命名」とのことで、「もんげー」という言葉が、岡山県の南部の港町では普通に使われていたことの有力な証拠になっている。となりにある食料品店も家族で経営をしているので、素材が安く仕入れられるのも大きな強みだという。スタンダードななかに新しいサムシングが渦巻くこの店から目が離せない。看板の電話番号の語呂あわせ(31-9151=サークイニコイ)も最高。
Information
萬福軒
- 住所
- 玉野市築港1-10-24 [MAP]
- 電話番号
- 0863-31-9151
- 営業時間
- 11:00~20:00(売切れ次第終了)
- 休み
- 不定
- 席数
- 18席
- 駐車場
- 4台