戦後にラーメンブームは幾度か発生していますが、そのうちのひとつは90年代後半から2000年代前半だと言われています。ちょうどこの頃から岡山ラーメン界で存在感を放っている店があります。

1998年の元旦。ワタクシは当時大人気だった、「とある番組」　の正月特番を観ていました。それは各ジャンルに精通した人が知識や技術を競う番組で、その回は人気ジャンル「ラーメン」の歴代チャンピオン5名が集結し、全国の名店を渡り歩いて味を審査するという番外編でした。一行はJRで九州から広島、そして高松に移動。岡山の店がエントリーされていないのが不満でしたが、彼らは四国への乗り換え時に岡山で下車し（宿泊したのでしょう）、嬉々としてラーメン店へ繰り出していったのです。その際「岡山にいい店が？」と訝しがるスタッフに、ひとりのチャンプが「『ラーメン巡りは岡山に始まり、岡山に終わる』と言う言葉があるんですよ！」と答えてくれたのです！　リップサービスだったのかもしれませんが、当時は本当に誇らしくて。そのときに紹介されたのが今回のお店でした（ちなみに店名クレジットなしで、今はなき「丸天ラーメン」も登場しました）。

その店は『浜ラーメン』。実は最初に掲載のお願いをした際、一度はお断りされました。理由は「ワシももう歳じゃから、突然に店を休んだりして、お客さんに迷惑かけると気の毒じゃから…」というもの。その思いを尊重し一度はあきらめたのですが、岡山のラーメン店主の高齢化問題は非常に深刻に捉えてまして、「だからこそ、しっかり話を聞かなければ！」と思い直し、お店へアポなしで行って直訴！　「ちゃんと事情を読者の方に説明してくれるなら」という条件で了承いただいたのです。上記の理由から、定休日以外にお休みをされることがあるかもしれませんが、皆さんご承知くださいね。ご主人は倉谷良夫さん75歳。大阪に生まれ、35歳で岡山へ。食堂で働いている際に独立心が芽生え、45歳でこの店を開店。今年で30年だそうです。隣は奥さんのさくらさん。ベトナム出身で日本語ペラペラ。主に接客を担当されています。結婚後10年だそうですがラブラブです。

オープンはこの木の看板に書いてある…。「そう。昭和61年の11月」。ラーメン店開店のきっかけは？　「当時テレビでラーメンの番組が多くて、豚ガラや鶏ガラを使って作ってるのを観てやってみたくなってな。ちょうど勤め人が窮屈になったころで…」。ゼロから創意工夫をして開店されたんですね。当時、博多風じゃない白いスープは衝撃的だったと聞いています。「ほかになかったから。濃いんじゃなくて、クリーミーにしたかったんよ」。そのあと例の番組出演ですね。収録は97年なのでオープン11年目ですか。「あのときは、急に連絡があって、急に収録をして、急にお客さんが増えてなあ」。当時大人気だった全国放送の正月特番ですもんね。多分チャンピオンのひとりが以前に食べたことがあって気に入って、「岡山ならココ！」って推薦されたんだと思いますよ。「こっちは突然で驚いたけど、すごい宣伝になって。おかげで多くのお客さんに来ていただけてうれしかったなあ」。

「ラーメン」500円。改めて観るとシンプルなルックスですよね。「見た目も味も30年間ほとんど変わっとらん。450円から50円値上げしたくらいかな」。これが今どきワンコインて！　このラーメンは一時期、「魔法の液体を入れているのを見た」などという目撃情報が続出して、「牛乳」とか「ヨーグルト」とかのウワサもあって。正体が豆乳だと分かってみんな驚いたんですよ。「豆かよ！」って（笑）。「何を驚いたんか分からんけど、色々と試して、一番スープに合ったのが豆乳だっただけ」。先入観がなかったのがよかったんでしょうね。ベースは？　「豚骨。後はまあ、もろもろじゃな」。麺がおいしいのも特徴ですが、チャーシューも存在感ありますよ。「バラ肉を3時間はしっかり煮込むかな」。30年この味を続けてみてどうですか？　「どうって…。自分が生きていく、生活するためじゃから。それをお客さんがよろこんでくれてな。本当にありがたいわ」。

もう1品ラーメンを。お、「カレーラーメン」650円って、あるようでなかなかないメニューですね。ルゥに工夫があるんですか？　「いや普通のカレー。牛肉多めにして、しっかり野菜を入れとるよ」。では、ひと口…。皆さん、本当に普通のカレーに麺をぶっこんでるだけですよ！　カレーうどんとかはだしで割ったりしてますけど、さすが浪速の男の心意気。非常に潔いです。国民的人気のカップ麺のカレー味とかとは基本的に別の食べ物だと思ったほうがいいですね。でも、うまいカレーにうまい麺を入れてるんだからうまいに決まってるって！　心の中にキレンジャーとラーメンマンが同居している人にはたまらないですよ。ボリュームもあって「食べた感」がありますし。これはかなり満足できる逸品です！　「でも普通のラーメンのほうが全然人気じゃけどな」。余計なこと言わなくていいですから！（笑）　このお人柄がお客さんに愛されてるんですね。

人気番組で一躍脚光を浴びた人気店は、それでも平常心であり続けました。その根底には常に「お客さんへの感謝」があったといいます。これからも永く続けて欲しい一軒ですね。

チャンプもうならせた変わらぬ味を、ワンコインで！

かわいらしい奥さんと、この味を極めたご主人が、絶妙のコンビネーションを見せる名店。ふたりとも愛想がよく、お客さんに愛されているのが本当によく分かる。店内に飾られてある、お客さんから送られたというご主人の笑顔を描いた絵や木の看板は、一生の宝物だという。「30年も続けられたのは、お客さんが来てくださり続けたからこそ。それがなければ店は続けられんわ」という主人の言葉は当たり前のことのようだが、謙虚さはもちろん、努力を惜しまなかったことや、仕事に対する高い誇りすら感じさせてくれる。「遠方からわざわざ来てくださる方が多いんですよ。それがうれしくて」と奥さんも言葉を続け、感謝の思いを語る。各ラーメンの大盛りは50円増しのサービス価格で、ラーメンよりも高い（?!）「焼きめし」650円も人気。駐車場は道から少し奥まったところにある。店主の体調などで急遽休みを取る場合もあるので、事前の電話が確実だ。

浜ラーメン

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