よくグルメ誌で目にする、「住宅街にひっそり佇む隠れ家的な店。順路はよく確認して! 近隣のご迷惑にならないようご注意を!」の文字。こんな言葉に惹かれてしまうのは、ワタクシだけではないはず。
「住宅街の中」「隠れ家的な」「場所が分かりにくい」といえば、小粋なビストロやオシャレなカフェではなく、ワタクシの場合は讃岐うどん巡りのイメージですね。10年ほど前封切りの讃岐うどんがテーマの映画では「一軒の店を迷いに迷って見つけて食えたら、そりゃもう感動してうまいに決まってるし…」という名台詞がありました。当然今回ご紹介するのは、うどんではなくラーメン。しかも倉敷にある、一見普通の住宅のようなお店だそうです。さらに聞くと「ようやくたどり着いたからうまい」のではなく、「本当においしくて、苦労してたどり着いたならうまさも倍加する!」というレベルの様子。Just Do It! これはすぐ行くしかありません。電話で取材依頼をした際には、掲載で露出が増え、にぎやかになることでの近隣へのご迷惑などを考えてか、少し迷われていた様子のご店主でしたが、後日すがすがしい程のお返事でOKを頂戴しました! 一路、道に迷わないよう、地図を見てお店へGO!です。あ、皆さん、近隣のご迷惑にならないようご注意を!
住宅街を歩いて無事到着。親戚のおばちゃんちのような古民家に靴を脱いで入ると、和室にちゃぶ台やテーブル、カウンターが。飾られているお花や骨董、調度品もお見事です。そして正面には鎧・兜が鎮座してます。その様相はさながら「一年中が端午の節句!」ですよ。「戦があったら私が身に付けて出陣しますよ!」とうそぶく声の主は、オーナーで料理人の池田さん。「私には『口の中は味の図書館だ』という持論があるんです。味の好みは十人十色ですが、味覚は磨くことができると思ってます」。ミカクとミガクをかけたわけですね。「おいしいものもそうでないものも含め、食べた量に比例して味覚は研ぎ澄まされると思うんですよ」。その量をどんどん増やして図書館のように収蔵していくというわけですか。この道を志した理由は? 「数ある料理の中でもラーメンは思い通りにならないから。ラーメンほど『完成系』が見えない料理って知らないですから」。
池田さんは続けて想いを語ります。「修行をすれば修行先の味に似ると思い、独学で始めました。まず惚れこんだ麺があり、それに合うスープの制作を始めたんです」。珍しいケースですね。普通は逆でしょう。「最初はスーパーでガラを入手し、とにかく炊きまくって。ガス代が1カ月で10万円もかかって家族に怒られて…」。さもありなんです(笑)。まさにゼロからですね。「ただでさえ個体差がある天然食材で、添加物を徹底して控えて作ろうと思ったから、マニュアルやレシピには頼れない。その日の状態や環境に合わせるしかないんです。クルマで例えるとオートマじゃ走れないんですよ」。分かりやすい表現です。「あと平面的な味っていうのかな。甘い辛いとかだけの2Dの味わいに、奥行きというか立体感を与えて3Dの味わいにしたくって」。感覚や経験を元にして、実態の見えない何かを加えた「深みのある味」を実現したかったんですね。きっと。
「まず『黄金そば』780円です」。黄金? 茶色いんですが。「まるで器の中のエルドラド(黄金郷)やー!」って意味ですか? 「違いますよ(笑)。黄金色の『鶏湯(チーユ)』を使ってるんです。すべてのメニューは親鶏ベースにトビウオ(アゴ)を加え、ドンコ(シイタケ)と魚介系数種を加えますが、親鶏を炊き込む過程で出る黄金の『鶏湯』を丁寧に抽出して、後から加えるんです」。特にしょうゆがおいしい! 「関東にある老舗の醤油蔵のものです。運命的な出合いがあって、すぐに現地へ走ったんですよ」。感じたらまず翔べと! 「スープを残さずに飲み干すことができるのが天然素材スープの特徴ですから、このしょうゆですっきり感を出し、クドさを排除しました」。なるほど。しょうゆに大きな秘密があると。このスープならしっかり飲み干せますよ。独特の香ばしい風味というか豊かな香りがしますね。「それが『鶏湯』の持ち味ですね」。「鶏湯」が、味に深みと奥行きを与えているんですね。うん。確かに「黄金そば」ですわ。
一番人気は? 「『塩そば』780円でしょう。ベースとなる『中華そば』750円を進化させて作りました」。チャーシューが抜群にうまい! どのラーメンにも同じものが入っているそうです。「穀物のみで育てた豚を使用していて、白い肉色なんです。脂身との境目が分かりにくいくらいですよ。その脂身が本当においしいんです」。そこまでこだわりますか! ところで、今までいろんなおいしい塩ラーメンを食べてますけど、この「塩そば」はどこか風味が違います。どんな塩を使ってるんですか? 「…」。あの、どんな塩を? 「…」。聞いてます? 「…」。あのう。 「そんな詰められると、汗から塩が吹き出ますわ」。何をウマいことおっしゃっておるのですか?(笑)。「企業秘密なんです」。承知しました。でも本当に塩分がキリっとうまみを締めてくれていますね。あ、ちなみに店名の由来は? 「小3のとき初めて連れて行ってもらった、今はなきジャズ喫茶の名前を拝借して…」。あ、確かにBGMもジャズだ。
「倉敷で今、評判の店は?」と聞くと、まず名前が挙がるとうわさに聞く隠れ家的な店は、店舗も、内装も、味わいも、ご店主も、非常に個性的&魅力的でした。これぞオリジン。
古民家を改装し、常識にとらわれない発想でうまれた中華そばの店。
JR倉敷駅北口から徒歩圏内にある、住宅街の普通の家屋。口コミ人気で満席のことも多く、「足を運ばれた方全員に、ラーメンを味わってもらいたいから」と、手早い提供のため、あえて客単価のあがるサイドメニューを休止したという。「誰にでもできて、誰にでもできない。習い事では学べない。ラーメンは独学で作るもの」という自己哲学のもと、素材や天候などに応じた臨機応変なラーメン作りが行われている。AM2:00頃から8:00頃まではスープなどの準備。実に営業時間と同等の時間を早朝の仕込みにかける。「営業中よりも大変かもしれないですね」と店主は笑って話すが、その労力は甚大だ。また、「味の冒険をたくさんこなしてないと、うまい物が作れないから」と、料理人たちや気の会う仲間などでジャンルを問わないグルメツアーを行うことも多いとか。「この独自な空間を使って宴会をしたい!」という声に応えて宴会プランも設定! 詳しくは問合せを。
Information
月のうつわ
- 住所
- 倉敷市日ノ出町2-2-46 [MAP]
- 電話番号
- 086-424-2929
- 営業時間
- 11:00~17:00(OS16:30)
- 休み
- 火、水曜
- 席数
- 13席
- 駐車場
- 6台