岡山メルパ 福武 孝之館長
映画業界20年、老舗映画館を切り盛りする名物館長。映画が持つ「観ることで、自分の世界が広がる」魅力を広めるべく、多彩なイベントを展開。ジャンルや制作者にこだわらない、テキトーな鑑賞が映画愛を高める秘訣。映画が好き過ぎて、あこがれのターミネーターに変身。特殊メイクがんばりました!
「掟破りの“デッドプール”」
このたび、掟破りのアメコミヒーローがスクリーンに現れる。
それは、いわゆるヒーローらしくないヒーローだとか、今までに居なかったタイプのヒーローだとか、そんなレベルではない。そいつは我々、映画を観ている観客に話しかけてくるのだ! しかもかなり気安く話しかけてくる。
物事には万事ルールはある。その中で映画のルールはずいぶん「ゆる~い」のかもしれない、しかしそれでも最低限の「掟」は映画にだってある。登場人物が観客に話しかけてしまったら、物語はたちまち作り物と化し、感情移入もヘッタクレもない!
しかし、この作品が今、アメリカで大ヒットしているのである。
この作品、配給会社である20世紀FOXのオープニング新記録をタタキだしているということは、あの『X‐MEN』や『スターウォーズEP3』などを越えているということである。しかも、驚くべきは、これが「R指定」作品であるということ。観客の年齢制限がある分だけ動員が物理的に不利になる。 なのに、なぜ!!!?
こうなると“クソ無責任ヒーロー「デッドプール」”の魅力を解明せずにはいられない。
物語はシンプルである。
そもそも好き勝手に生きている主人公のウェイドは、かつて特殊部隊の有能な傭兵だった。彼はある娼婦と出逢い結婚を決意する。幸福な未来が待ち受けていると思ったのも束の間、全身に転移したがんにより、余命わずかと診断される。しかし、ある男に末期がんを治せると言われ、怪しい人体実験施設へ連れて行かれるのだ。
むごたらしい実験の結果、彼はがんどころか、どんな攻撃を受けても回復してしまう無敵の肉体を手に入れる。しかし実験により顔を含めて全身の皮膚がただれ醜い姿となったウェイドは赤と黒の戦闘スーツに身を隠し、自分に人体実験をした男に復しゅうを誓うのだ。
と、一見、かわいそうな男の復しゅう劇に見えるが、これが全く違うテイストで描かれているのだ。
まず主人公のウェイドが超ポジティブだ! むごたらしい人体実験の最中でもジョークを忘れない。「いやっ、こいつ頭おかしいだろっ!」とツッコミたくなるだろう。そして常にトークが軽い。無責任かつ御下品。知り合いに絶対にいてほしくない。つまり、自身の辛い経験から正義のヒーローとなる物語ではなく。ただ単に自分の欲望のためだけに人を成敗していく、むしろ悪モノなのである。
しかし結果として、自分よりもっと悪やつをやっつけているので、みんなごまかされているのだ。こんなごまかしがあっていいのだろうか!? 私はクライマックスで思わずスカッとしてしまったではないか! 更に結末までみると、胸キュンもあったりする。チックショーっ! 奴の思う壺である。もう彼の次の活躍が気になってしかたない!
結論として「デッドプール」の魅力は何と聞かれれば、“ピュアで前向き、一途で強い信念の男“ということ・・・・。
ベタボメじゃねーかっ!!!
どこで間違ったんだ! このコラム。 しっかりしろ俺!
「デッドプール」は今まで観たヒーローで最低だぞー!
ウソだと思ったら、映画館で観てみてっ!
公開情報
- 『デッドプール』(R15+)
- 監督:ティム・ミラー 出演:ライアン・レイノルズ
- 6月1日(水)より岡山メルパ他にて公開!
岡山メルパ館長 福武孝之