演劇がヒントをくれるかもしれない。多様性や共生をテーマにした家族劇。
今回は2025年6月24日(火)、25日(水)上演予定の名取事務所公演『燃える花嫁』を取り上げます。インパクトあるタイトルですが、もしかしたらそう遠くない日本の未来で起きるかもしれない、少子化やジェンダー、移民問題などがテーマ。『燃える花嫁』を企画した『岡山芸術創造劇場』劇場長兼プロデューサーの渡辺弘さんに思いを語っていただきました。

「演劇では、しばしば社会的な問題を題材にした脚本が書かれます。『燃える花嫁』は、近未来の日本にある架空の地区を舞台に、そこに住む在日外国人家族と日本人家族の2組を中心に繰り広げられる家族劇です。タイトルには情熱や情念などいろんな意味が込められていて、物語が進むごとにその意味が紐解かれていきます」。
「物語の中では、近未来の日本は移民が増え続けた結果、ついには外国人と日本人が区分けされていくことになります。差別があったり、入国管理局が難民受け入れを制限したり。そんな状況で外国人家族はどう生きていくのか、日本人家族は彼らとどう付き合っていくのがいいか問われています。

▲劇作家、演出家・ピンク地底人3号。同志社大学美学芸術学卒、元納棺師という異色の経歴。2022年手話裁判劇『テロ』(第1回関西えんげき大賞の最優秀作品賞&観客投票ベストワン賞)ほか受賞多数
「今作の作者であるピンク地底人3号さんは、執筆にあたり外国人のコミュニティを取材し、脚本は8~9稿を重ね、完成まで1年9カ月をかけて、この新作を書き下ろしました。演出は、ヨーロッパ滞在経験があり、移民問題を肌で感じてきた生田みゆきさん。架空の話とはいえ、取材や体験値をもとにしたリアルな表現が見どころです」と、渡辺さん。そもそも渡辺さんは、なぜこの舞台を企画しようとしたのか、きっかけが気になります。

「いま世界には多くの紛争地域があります。それでも現地には芝居や映画が日常の中にあり、むしろ積極的に発信しているところも多いんです。そんななか、私の友人が紛争地域でつくられた戯曲を、朗読劇に近いシンプルな形式でリーディング上演していて、ぜひ私が関わっている『彩の国さいたま芸術劇場』でそれらの戯曲を演劇にして観てもらいたいと考えて、2018年から『世界最前線の演劇』シリーズとして上演をはじめたんです」。
「そのとき改めて埼玉県には、多くの外国人がいることに気づきました。特に川口市は、いち早く外国人の労働力が入った地域で、外国人コミュニティも増えています。そんなこともあって、『世界最前線の演劇』では紛争地域の人々の苦労を演劇にしてきましたが、自分が住む日本のことも取り上げてみたいと思うようになりました。そこで世界のいろんなおもしろい戯曲を手がけ、数々の賞を受賞している名取事務所さんに協力を仰ぎ、実現することができました。ぜひ多くの方に見ていただきたいです」。

外国で暮らす人たちの就労や共生は、日本だけでなく世界中にあるテーマ。近未来の日本を舞台にした『燃える花嫁』を観ることで、外国人と共生することについて、多様な視点で考える機会になれば。名取事務所公演『燃える花嫁』は、2025年6月24日(火)・25日(水)、『岡山芸術創造劇場 ハレノワ小劇場』で上演されます。
(詳細は『岡山芸鬱創造劇場 ハレノワ』HP(https://okayama-pat.jp/event_info/moeruhanayome/ )にて。
渡辺さんは、これから共生をテーマにした演劇に取り組みたいという。「私自身これまで『彩の国さいたま芸術劇場』で芸術監督の蜷川幸雄さんとともに、55歳以上の劇団『さいたまゴールド・シアター』や、『介護×演劇』の第一人者でもある菅原直樹さんと『老いや介護の明るい未来』を目指して、高齢者をテーマにした舞台をつくってきました。これは今後も継続していきます。それに加えて、外国人たちとの共生をテーマにしたいと思っています。なぜなら、岡山県も就労を目的としてアジア圏をはじめ多くの外国人が暮らしていることを実感しているからです」。
「岡山県の隣、兵庫県には『兵庫県立ピッコロ劇団』という劇団があります。この劇団は外国人が日本語を使ったゲームや表現活動を楽しく体験でき、日本人と外国人がお互いを理解し合い、共生することを目指した事業を展開しています。いまでは家族ぐるみで集まる大切なコミュニティとして機能していて、行政から『防災アプリを入れましょう』など公的なお知らせが届いたり、町内会のおばあちゃんがゴミの捨て方を指導したりと、日本に住みやすくなるような活動にもなっています」。
渡辺さんは『兵庫県立ピッコロ劇団』を訪れた際に、「あっ、共生はそこからはじまるのか」と大きな気づきがあったとのこと。埼玉県のとある団地でも、外国人にゴミの捨て方を教えるところから始まり、そこに大学生も加わって「一緒にお祭りをしましょう」と、外国人と交流する仕組みができていったといいます。

「考えてみれば、自分も東京から単身赴任で岡山に来て、最初はゴミの仕分け方や捨てる場所さえわからなかった。日本人とか外国人とかは関係なく、初めて暮らす地域で直面する困りごとはみんな一緒です (笑)。なので、劇場ならではの切り口で、『ハレノワ』で岡山在住の外国人が気軽に交流できるパーティを企画することにしたんです。将来的には彼らとお芝居か何かをつくれたら、などといろいろ考えているところです」。

「ありがたいことに、当劇場の会員『ハレノワ・メンバーズ』が2万人を超え、来館者数も増えました。2025~2026年度にかけて、大注目の役者さんが出る演劇やダンス、人気のキャストが演じるミュージカルなどが続々とやってくる予定です。ですので、『キャストの魅力』が光る作品と、その時代の社会的な背景を反映した『テーマの魅力』が光る作品の両方を織り交ぜながら、皆様に楽しんでいただける舞台を上演していけたらと思っています」。
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