『ハレノワ』のある街で演劇を愉しむ。その魅力って何だろう!! 地元で活動を続ける劇団員さんのつぶやき。
2024年のフィナーレが近づいてきました。大・中・小のホールを持ち、多様な舞台が鑑賞できる『岡山芸術創造劇場 ハレノワ』がオープンして1年あまり。今回はそのお膝元、表町商店街周辺を中心に活動を続けてきた、2つの劇団のメンバーにこの街で演劇を愉しむ魅力について語ってもらいました。
まず、62年の歴史を誇る老舗『劇団ひびき』。
1962(昭和37)年、初代・古市福子代表(演出)が設立。終戦(昭和20年)後、文化への渇望感から演劇界は活発になり、社会人や学生による演劇の発表の場となった「岡山実験劇場」(県社会教育課主催、昭和25年スタート)で高評価を受けた『劇団あかしあの会』の活動を引き継ぐ。
コンセプトは「扮するのではなく、そこに存(い)きる」を体現したリアリティのある舞台。登場人物の、台本に書かれていない人生や心情までも具体的にイメージしていく稽古が特徴的。
1995年、現在の『ハレノワ』の東隣エリア、京橋町に専用稽古場を開設。メンバーは6代目・隅田啓介代表や演出の猪熊翔副代表をはじめ、20~70代の13人。
そして、来年10周年を迎える『岡山劇団SKAT!!』。
広島のそれぞれの劇団で活動していた綿谷みずき代表と、天野嵩晟副代表が岡山に移住後、2015(平成27)年に設立。公演は主にオリジナルファンタジーで、天野氏がすべて作・演出を手がける。
コンセプトは、殺陣あり、ダンスありの「観た人がスカッとする」エンターテインメント性の高い舞台。基礎練習を大切に、体幹を鍛え、殺陣やダンスの稽古も行うのが特徴的。若手の育成に力を注ぎ、メンバーは小学校低学年~50代の約30人。
ある意味、好対照なふたつの劇団。どちらもこの10月に公演があり、大盛況だったとか。
それでは、2つの劇団の皆さんに話を伺ってみましょう。
──『岡山劇団SKAT!!』のミュージカル版「SWEET DREAMS~復讐の監獄~」は、今年初めて、念願の『ハレノワ』の中劇場(807席)で上演。2回あった公演はほぼ満席で、迫力のある壮大な舞台でしたね。
天野 岡山で『劇団☆新感線』のようなアクションを入れたミュージカルをやる団体はほとんどないので、やってみたくて。今回、大がかりな舞台セットを創ったんですけど、丈夫な骨組みのスチールデッキがあるのは『ハレノワ』の強み。それに階段を付けて高台を創り、その下をくぐり抜ける演出ができて嬉しかったですね。
──この前、『ハレノワ』の中劇場の公演だから観に行く、という人に出会いました。客席の勾配がある分、舞台との距離感が近くてどの席からもよく見えるからと。いろんな人に中劇場の鑑賞を勧めているそうです(笑)。
全員 へーっ!
──『劇団ひびき』の今年の公演「囚われのマルガリータ」。舞台のバーもマスターも本物みたいで、客として行きたくなりました。
猪熊 よかったー! マスター役は、この2月に入団した70歳になるメンバーです。
隅田 稽古では大分苦労しとったけどなぁ(笑)。
──そんな風に見えない。すごくナチュラルでしたよ。会場の専用稽古場は床から天井まで黒くて、光の演出が効果的なブラックボックス的小劇場になるんですね。
隅田 本当に小さいですよ。昔はお客様がギュウギュウ詰めで30人入って、今は15人前後くらいまで。コロナ禍でプライベートスペースを確保しなくちゃいけなくなって。
──『ハレノワ』の小劇場(最大300席)もブラックボックス型の平土間空間で、客席を自由に組めますよ。
隅田 大きい施設は集客に不安があって。コロナ禍真っただ中の時に苦労したんです。広報の手も足りなくて。
猪熊 ありがたいことに、「囚われのマルガリータ」の16席×10回の舞台は全公演満席になりました。その延長線上なら視野に入ってくるかも。
天野 今回、実感したんですが、『ハレノワ』のオンラインチケットの情報って、わりと見られてるみたいです。
──『ハレノワ』の誕生で感じる街の変化は? 今後、演劇で街をどう盛り上げていきたいですか。
猪熊 今回の公演のチケットの当日キャンセルが出た時、急きょ、呼び込みをしたら、反応が良かったんですよ。『ハレノワ』効果で、観ることへの市民の敷居は下がってきているかも。
綿谷 商店街の人通りが増えたことに感動してます(笑)。この一年で有名なアーティストや俳優がたくさん来てますし。『ハレノワ』にチケットを買いに行くと、平日でも館内にけっこうお客さんがいますよ。
隅田 1階にパン屋とかあったり。劇場で公演がなくても行きやすくなった感じですね。
天野 岡山に観劇文化がもっと根付くといいですね。『ハレノワ』ではすでに来年も、主催事業やプロの公演だけでかなり劇場が埋まっているみたいです。
綿谷 お客さんの目が肥えたら、アマチュア劇団にも興味が広がり、集客につながるかもしれないですね。
隅田 僕は演劇に感謝するところがあって。26歳から演劇を始めたんですが、当時、怒るということができなかったんですよ。笑い方も忘れてるような…。それが、台本で自分じゃない役を読み込んでいくうちに現実逃避になったみたいで、自分の感情を見直すことができたんです。そんな体験を他の人にも楽しんでもらえたら。劇団に代々伝わる大事なものは残しつつ、新しい風も入れていきたいですね。
猪熊 温故知新ですね(笑)。
天野 僕が岡山に来た時、18歳未満で入団できる劇団があまりなくて。若い子が本格的にお芝居をやりたいとなったら、みんな県外に行ってしまうような状況でした。お芝居は岡山でもできるんじゃないかと思ったし、僕も高校時代から始めたお芝居で救われた部分がいっぱいあるので、若い子にもそういう経験をしてほしいなぁと…。そのためにも育成をテーマに活動していきます。
<消費税率の変更にともなう表記価格についてのご注意>
※掲載の情報は、掲載開始(取材・原稿作成)時点のものです。状況の変化、情報の変更などの場合がございますので、利用前には必ずご確認ください