地域の人々の心の支えになってきた「日限地蔵さん」。『ハレノワ』の誕生で、よりご縁が広がる「日限の縁日」に!
『岡山芸術創造劇場 ハレノワ』を中心に、マンションやオフィス、店舗を備える再開発ビル「ハレミライ千日前」。そのモダンな建物は昨年末に完成し、街の新しいランドマークになっています。
このエントランス沿いにある南北の『千日前ハレマチ通り』は、かつての旧千日前商店街。長さ約200mとコンパクトながら昭和30年代は、飲食店を中心に約100店舗がひしめき、毎日お祭りのように賑やかだったとか。
最盛期には映画館が7館も連なっていたうえに、ここは世界3大サーカスのひとつ『木下サーカス』発祥の地。昔からエンターテインメントな通りなのです。
そして、今回は『ハレノワ』のすぐご近所にあり、その歴史を見守り続けてきた大雲寺を取り上げます。このお寺は、霊験あらたかな石仏、「日限(ひぎり)の地蔵さん」で有名なお寺で、毎月23日は100年以上続く「日限の縁日」を開催しています。今も県内外から参拝客が訪れるそうです。ということで取材は「日限の縁日」に決定です。
vol.7では、『木下サーカス』の木下嘉子副社長がその思い出を語っていました。昔は千日前から寺まで西へまっすぐ続く約100mの道にガス灯がともり、露店がずらりと並んでいたそう。
「縁日の日は、特に、朝から晩まですれ違う人と肩が触れ合うくらい賑わっていましたね。千日前は信仰心とともに楽しい思い出が育まれる場所でもあったんです」と懐かしそうに語ってくれました。
昭和40年代のピーク時には、たこ焼や、たい焼などの軽食や駄菓子、植木、生活用品、スーパーボールや金魚すくいの店など約300の露店が立ち並び、なんと1日約5万人もの人が訪れていたそうです。取材した日には、境内に数えきれないほど並ぶ大小の地蔵様が優しく迎えてくださいました。
寺は、特徴的な造りになっていて、正面から向かって右半分の本堂にご本尊の阿弥陀如来、左半分の地蔵堂に「日限地蔵さん」として知られる日限延命地蔵が祀られています。
この日は皆さん、地蔵堂にお参りして心身の健康や家内安全など、思い思いに祈願。昼と夜の2回ある「塔婆回向」で住職がお経を読み上げます。
地蔵堂の一角には、祈願を申し込むコーナーが。受付のボランティアをしていた女性の話には胸を打たれました。
「私は、以前にわが子を亡くしましてね。もう苦しくてしかたなかった時、親友からこのお寺のことを聞いてここに来ました。そして、お地蔵様を見たとたん涙が、だーっと流れて、泣けて泣けて救われた気がしたんです。もう何年も前から毎月、大雲寺の縁日にお手伝いと写経のため通わせてもらっています」。
34代目となる「若住職」こと、西崎智教さんが「日限地蔵」の解説をしてくれました。
「ちょっと珍しい、さすって頂けるお地蔵様なんですよ。ご自分の体の痛いところや悪いところと同じ部分をさすって、よくなりますようにとお願いします。『何日までにかないますように』と日を限ってお願いすると思いが達すると伝わることから、『日限地蔵さん』として知られるようになったんです」。
大雲寺の地蔵信仰は、その昔、旭川が大洪水を起こしそうになった時に、この延命地蔵が岸に流れ着いて水をせき止め、大被害を防いだという伝説に端を発しているそう。大雲寺が岡山空襲で全焼した時は、当時の住職の娘さん(中学生くらい)がご本尊を背中におぶって逃げたとか。
大きくて重い日限延命地蔵は持ち出せなかったのですが、焼け残った灰の中にその石仏だけが立っていたそうです。
▲東日本大震災の年から「日限の縁日」で毎月演奏する「オカリナフレンズ」。30分で10曲を披露し、歌いやすく工夫した歌詞カードを観客に配布。平均年齢約75歳のメンバーは演奏後の買い物や食事も楽しみとか。一緒に歌った常連参拝者同士が仲よくなることも
訪れる人が減った「日限の縁日」ですが、2011年の東日本大震災を機に、飲食店の店主や住職が、この縁日を通じて被災者の支援や交流の場づくりをしようと実行委員会を立ち上げました。千日前の通りまで露店を増やしたり、物作りのワークショップやコンサート、紙芝居や餅つきのイベントをしたり…。
▲「日限の縁日」で時々、安来節保存会岡山支部の熟年師範の資格を持つ、古家つる代さんがどじょう掬いを披露。そのユニークな表情にくぎ付け。この日はあいにくの雨だったが、本来はもっと動き回るとのこと
「その後、千日前の再開発が始まってから人を呼び込む行事を休憩することになり、さらにコロナ禍もあって実行委員会は休眠状態になっていました。今は、この6月の『ハレノワ』のプレオープンに合わせて実行委員会を再編成し、子どもからお年寄りまで楽しめるような企画を練っている段階です」と住職。
「縁日は、もともと縁を結んだり、縁に気づいて感謝する日で、信仰に基づいたものです。当寺院では毎月23日が、お地蔵様と縁を結んで頂く日になっています。仏教の教えは、『今を豊かに生きていくことが大事だよ』ということ。そして、地域や街づくりのお手伝いをさせてもらうのがお寺の役目で、昔は、寺子屋やお祭りなど地域のイベントの場で地域の人々に身近な存在でした。
境内は自由に散策していただけるので、『ハレノワ』を訪れた人が、商店街や寺を回遊してくださったらうれしく思います」。
オカリナの演奏会など毎月催しもあり、楽しみにしている常連さんも多いのだとか。雨の日や寒い日は温かいお茶をふるまったり、足腰の弱い人のためにイスを用意したりと、住職の細やかな配慮も評判です。
取材日は、この4月と9月の「日限の縁日」で「おかんアート」のワークョップを開く、地元商店街出身の女性3人組も打ち合わせに訪れていました。これからおもしろくなりそうな予感…。
これからたくさんの人が訪れる『ハレノワ』。そしてその近くにあるご縁を結ぶお寺。どんな出会いが生まれるのか、期待に胸が膨らみます。
※参考資料
『絵図で歩く岡山城下町』(2009年発行)
『おかやま雑学ノート』(2017年発行)
『岡山市史(宗教・教育編)』(1968年発行)
『岡山のすがた 昔と今』(1973年発行)
山陽新聞
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