暮らしのいいものをセレクトしている『ハレマチ特区365』と『オセラ』が、岡山をはじめとする瀬戸内の企業・団体・職人・作家など「ひと」に着目し、そこから生まれる魅力あふれる商品とその思いをご紹介します。
「作り手」たちの意外な視点や温かい思いを知ると見えてくる、商品の魅力、新しい世界。
大学時代を過ごした京都で、織物をはじめ、寺社や庭、伝統工芸品など多くの美しいものに触れたことが、後の真田紐製造のきっかけになったと振り返るのは、現在、坂本織物有限会社の専務を務める坂本早苗さん。繊維業が盛んな児島唐琴で生まれ、織機の音に親しんで育ってきたから、卒業後家業を継ぐことも自然な流れだった。しかし、時代の波に押され繊維業が衰退。何か新しい取り組みを…と考えていた矢先、手に取った郷土史の中で、真田紐がかつて地元で盛んに作られていたことを知る。「幼い頃、父親がよく備前焼を見せてくれました。でもその時備前焼よりも、それが入っている桐箱や箱を結わえている真田紐のほうに魅かれてたんです」と笑う早苗さん。「中の道具をしっかり守っている感じが格好いいなあ、って」。
当時、児島で真田紐を作り続けていたのは一軒のみとなっていた。「地元の特産品を守り継がなくてはと。同時に、昔京都で見たあの美しさを、真田紐で表現してみたいと思いました」。早苗さんの熱意は実を結ぶ。地元唯一の職人から希少な力織機を譲り受け、真田紐作りへの挑戦が始まった。
「旧型の力織機は扱いが難しいんです。急に糸が切れたり、織り幅が変わったり…。なんでそんなことが起こるのかさっぱりわからなくて、試行錯誤の繰り返しでした。結局は理屈じゃなくて全体のバランスの問題だから、経験してつかみ取っていくしかないんですよね」。半年かけてようやくコツをつかみ、商品開発に着手。真田紐を使った人気商品を次々と生み出してきた。
なかでも思い入れがあるのが、真田紐を使った靴ひもだ。強くて丈夫な真田紐は、元々武士が刀を腰に下げるのに使われてきた。「茶器の箱にかけるのもそうですが、大切なものを守る意味合いを持つのが『真田紐』なんです」と話す早苗さん。それゆえ大事な足元を結わえるひもとして、無事行って帰ってくることを願うお守り的なものとして、真田紐は靴ひもにピッタリだと考えたのだそう。すでに発売中だが、織り方と糸を変え、より強度とフィット感を高めた新商品を今秋発売予定だ。
真田紐の歴史や特性を生かし、現代の暮らしに合った商品を提案してきた早苗さん。「息子が後を継ぐと言ってくれたんです」と嬉しそうに話す笑顔に、ものづくりの町・児島の明るい未来が垣間見えた。
今では10台の力織機が並ぶ工場。その中にはメイドイン児島の希少な力織機も。「人間と同じで、1台1台個性がある。ふっくら美しく織り上げるには、それぞれに合わせて調子を取ってやることが大切なんです」と早苗さん。
坂本織物有限会社 専務
坂本早苗(54)
さかもとさなえ 1966年生まれ 倉敷市児島在住
大学卒業後、帰岡し父親が創業した細幅織物の製造・販売に従事。2011年、もともと好きだった真田紐が、かつて児島の特産品であったことを知り、その製造に取り組み始め、「倉敷結紐」としてブランド化。現代風にアレンジを施したさまざまな商品を展開する。2015年に始まった「おかやまマラソン」の完走者・入賞者メダルのひもとしても採用されている。
Information
坂本織物有限会社
- 住所
- 倉敷市児島唐琴3-13-21
- 電話番号
- 086-477-6340
- HP
- http://www.sanadahimo.info/
ハレマチ特区365
『イオンモール岡山』の5階にある、晴れの国おかやまに息づく、ものづくりのスピリットを体感・体験できる空間。岡山県内を中心に、せとうちエリアの作家や職人、企業による雑貨、ウェア、ストックフード&器など、1000種類以上のアイテムをラインナップ。作家によるワークショップをほぼ毎日行なうスペースも常設。
Information
ハレマチ特区365
- 住所
- 岡山市北区下石井1-2-1 イオンモール岡山5階
- 電話番号
- 086-206-7204
- 営業時間
- 10:00~21:00
- 休み
- なし
- 駐車場
- 約2500台(有料)
- HP
- https://hare365.com/
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