暮らしのいいものをセレクトしている『ハレマチ特区365』と『オセラ』が、岡山をはじめとする瀬戸内の企業・団体・職人・作家など「ひと」に着目し、そこから生まれる魅力あふれる商品とその思いをご紹介します。
「作り手」たちの意外な視点や温かい思いを知ると見えてくる、商品の魅力、新しい世界。
金沢の美大の彫刻科に進学し、木彫や石彫を制作してきた造形作家の眞鍋芳生さん。彼と張り子との出合いは、人間国宝・宮内フサさんが作った高松の張り子人形「奉公さん」だった。「無垢で原始的な創造、具象と抽象の融合を感じました。それに、木彫や石彫は素材を彫っていくマイナス方向の造形。いっぽうで張り子は、型に紙を貼り重ねていくプラス方向の造形。まったく逆のアプローチが新鮮だったんです」。
30歳にして新たな世界へと足を踏み入れた眞鍋さん。しかし伝統工芸品である張り子は一子相伝が基本。習いにいく場所も教えてくれる人もおらず、現物を手に考え、失敗しながら自己流の作り方を見つけていった。そんな折、倉敷はりこの四代目・生水玩山さんと知り合う。眞鍋さんの作り手としての情熱が伝わったのか、玩山さんは材料の取引先、質の見分け方、適正な価格などを指南してくれた。「玩山さんが、私に張り子の真理を教えてくれたんです」と、眞鍋さんは今も感謝の念に耐えない。
眞鍋さんがこだわるのは、昔ながらの手張りでの制作。今は機械張りもできるようになっているというが、「機械で張るとどうしてもガサガサした雑な感じになる。滑らかな質感や優しさは手張りでしか出せません」。そのふんわりとした優しさは、焼き物には出せない表情であり、張り子の魅力なのだという。
張り子の軽さと壊れにくさは、土産や贈り物にも好適である。だからこそ「地域のものを使ってその魅力を発信しなければ」と、新聞紙や雑紙でもできるが、あえて希少な備中和紙を眞鍋さんは使用している。伝統工芸である備中和紙を受け継ぐ、若き職人・丹下直樹さんの紙漉きへの情熱に同じ思いを感じたことも一因だそう。
「技を伝承していくことがこれからの私の使命。一五年ほど前から張り子の教室を開いていて、30人くらいの生徒が、県外からも通って来ています。彼らが、いずれ張り子作家となって受け継いでいってくれると信じているんです」。同時に、伝統工芸品がもっと身近で、暮らしに寄り添う存在であってほしいとも願っている。眞鍋さんの作る張り子や土人形はどれも表情豊かで、くすっと笑える遊び心もある。「日常には笑顔が必要でしょ」。そう言って笑う眞鍋さんの笑顔は、どこまでも穏やかで温かかった。
道楽かん工房 造形作家
眞鍋芳生
まなべほうせい/1945年愛媛県生まれ、倉敷市在住
金沢美術工芸大学に進学し、油絵、彫刻、木工、デザインを経験した後、1973年に岡山へ。昔ながらの制作方法で張り子人形・張り子面、土人形を作り始める。干支やひな人形、桃太郎、招き猫などをモチーフに、暮らしに潤いを与えてくれる愛らしい作品を制作。各地でワークショップを行ない張り子の魅力を伝えるとともに、教室を開催し、後継者の育成にも力を注ぐ。
Information
道楽かん工房
- 住所
- 倉敷市山地66-3
- 電話番号
- 086-462-8637
- HP
- http://dooraku.natural-fabrics.jp/
ハレマチ特区365
『イオンモール岡山』の5階にある、晴れの国おかやまに息づく、ものづくりのスピリットを体感・体験できる空間。岡山県内を中心に、せとうちエリアの作家や職人、企業による雑貨、ウェア、ストックフード&器など、1000種類以上のアイテムをラインナップ。作家によるワークショップをほぼ毎日行なうスペースも常設。
Information
ハレマチ特区365
- 住所
- 岡山市北区下石井1-2-1 イオンモール岡山5階
- 電話番号
- 086-206-7204
- 営業時間
- 10:00~21:00
- 休み
- なし
- 駐車場
- 約2500台(有料)
- HP
- https://hare365.com/