あたりまえにある身近なあんなものやこんなものに、実はこんな歴史や理由があるのです…。
そんな身近にある何? なぜ?を調べます。
元旦には大にぎわい! 最上稲荷の門前町を調査!
正月三が日は身動きが取れないほどごった返す最上稲荷。その参道沿いにある門前町は、昭和なノスタルジー感が残るスポットです。しかしその町の成り立ちを知る人は少ないはず…。そこで、その門前町の歴史や、年末年始の楽しみ方などを調査しました!
最上稲荷 門前町の歴史
明治・昭和の頃、隆盛を極めた門前町
初詣で数多くの参詣者が訪れる最上稲荷。その参道沿いの商店街は、正月は人がごった返し年賀状が年末にひと足先に配達されるほど。そんな最上稲荷、そしてその門前町の成り立ちを知っていますか? 約1200年もの歴史を持つ最上稲荷は、備中高松城の水攻めの戦で寺の建物を失うも、江戸中期頃から信仰が盛んになったといいます。多くの参詣者が訪れるようになると、宿、茶店、土産物店などが軒を連ねるようになり、明治37年に中国鉄道吉備線(現・JR吉備線)が開通して参詣者が急増。明治44年に現・備中高松駅から中国鉄道稲荷山線が最上稲荷のふもとまで開通(現在は廃線)し、参詣者はさらに増えていったといいます。
今回、門前町の歴史を取材するにあたり訪ねたのが、120年以上続く『光屋酒店』。昭和21年、15歳のときに家を継ぎ、御年88歳の今にいたるまで看板娘として店を守る秋山美撰さんと、息子で最上稲荷観光協会の常務理事を務める俊二さんに話を聞きました。「今と昔とでは初詣の雰囲気も違ったわね」と語る美撰さん。「約50年前の昭和の頃は、参詣者が今よりもっと多くて、家族総出で正装の着物でお参りに来られて、帰りに門前町に立ち寄りみんなで食事をし、土産を買って帰る方が大半。本当に正月は華やかでにぎわっていたのよ」とのこと。今とは違う趣の正月の風景だったんですね。世の中には元日にもオープンしているコンビニやファミレスができた影響もあって、店に立ち寄ってくれる人は多くないとか…。美撰さんがまだ子どもだった戦前まではこの門前町にも芸者がいて、町には三味線の音が聞こえていたことも。また今ほどクルマが普及していなかった頃は1泊して帰る参詣者も多く、旅館も数軒あった。通り沿いにその名残りが感じられる。そんなきらびやかな時代も今は昔。かつては50軒ほど軒を連ねていた店が、今営業を続けているのは20軒ほど。店主の高齢化も進んでいるとか。ただ、昭和を感じる看板や建物の佇まいは今も健在。このレトロな通りを歩いていると、昭和にタイムスリップしたような気分になりますね。
【光屋酒店】
正月三が日の門前町の現場とは
とはいっても正月は特別! 『光屋酒店』も三が日は24時間営業になるそうです。昔に比べ店のにぎわいは少ないものの、息子の俊二さんいわく、「お参りもできないし、紅白も見たことないし、雑煮を食べる暇もない」ほどだといいます。年明けから忙しくなるから、12時前に仮眠に入っていて、年越しの瞬間は寝ていることも。最上稲荷のこんなに近くにいるのに、寝てしまうなんてもったいない気がしますが、これが現実なのですね…。ほかの店に聞いても「正月は働いている記憶しかない」「目の前の通りしか見てないから、どれだけの人が参詣に来ているか分からない」「年越しはそばではなく、簡単に食べられるようカレーです」など、私たちがイメージするのんびり過ごす正月とは対照的に、全力仕事モードの三が日のようです。
大みそかから年始は、店の前の参道は下りのみの一方通行になるのは、皆さん知ってましたか。除夜の鐘が鳴る頃はまだ人々は境内に集まっており、年越し前の参道はシーンとしていて静寂に包まれ、店は臨戦態勢に…。年が明けたとたん人がどっと押し寄せ、そこから正月商戦がスタート。この時期に年間の3分の1の売り上げを稼ぐというから、いかに多くの人が来ているのかが分かります。年明けの忙しさは、節分の頃まで続くのだそうです。
正月、門前町をより堪能できるおすすめグルメあれこれ。
境内から参道へ下りていくと…
正月を迎え、参道を下りるとき。どんな店があったかな? そう思う人も多いのでは。参道であるがゆえに神具店やだるま、熊手などの縁起物を売る店も多いですが、今回はグルメ系の立ち寄りスポットを中心におすすめ店をピックアップ。ちなみに、年末年始は元々ある店のほかに屋台が間借りして営業している店も多数。今回は長年参道で営業する老舗をいくつかご紹介します。
下りて比較的すぐの場所にある『おかもと屋』。通りからは、機械で「ゆずせんべい」を焼いている様子も見えます。焼いたせんべいにユズの皮を漬けたみつを絡めて乾燥させると自家製「ゆずせんべい」が出来上がり。また、この店には岡山県産清水白桃入りのみつを使ったオリジナルせんべい「ももせん」にも注目です。名物は餅粉を使った「もちもちいなり饅頭」。名前のとおり、もちもちした食感が魅力です。
【おかもと屋】
さらに少し下ると、食事処の『大黒屋』が。店の中ののれんに「上大黒屋」とあるのは、昔さらに下ったところに『下大黒屋』という親戚の飲食店があったことから区別するために付いた呼び名だとか。昔からの常連は「かみだい」と呼ぶそう。ここの名物はうどんとそば。「いなり」がのった「きつねうどん」が人気だというのも最上稲荷の門前町らしいですね。ともに自家製麺でうどんのほうが注文が多いけれど、実はそばにもファンが多いそう。太めの田舎そばで、昔ながらの素朴で懐かしい食感、味わいにはまる人もいて、毎年そばを食べにくる常連もいるんですって。
【大黒屋】
その下にあるのが、最初に歴史の話をうかがった『光屋酒店』。酒店だけあって、正月用のお酒を買いに来る客が訪れるそうですが、見逃してはいけないのが、オリジナルラベルの岡山の日本酒や焼酎、リキュールなどの地酒が販売されているということ。ちなみにラベルは店主の俊二さん作。参道にあるイラスト付きの地図も店主によるものだそうです。さらに気になるのは、向かいにある別棟で味わうことができる「玉子焼き定食」。酒店なのになぜ? それは店主が玉子焼が好き過ぎて、研究を重ね、30分もかけて低温でじっくり焼きあげるだし巻き玉子を完成させたから。プリンのようにトゥルッとしている玉子焼は、穴場グルメです!
そして、名物「ご縁まんじゅう」が味わえる『常盤堂 本店』は外せません! 1月に米寿を迎える社長が「お参りしてくれる皆さんにご縁ができますように」という思いで、本店があるこの地に、昭和56年に作られたという「ご縁まんじゅう」。三が日は朝でも、深夜でも「ご縁まんじゅう」を焼きあげており、参道からはその様子も見え、ほかほかのまんじゅうを1個から買うことができます。私もかつて人が少ない頃をねらって夜遅くに参詣に訪れたとき、寒い中参道を下りている途中に店の明るい光に誘われ、温かいまんじゅうをいただいた時はほっとしたなぁ~。
【常盤堂】
知れば立ち寄りたくなる、最上稲荷門前町の世界。皆さんも、参詣の後に気になる店をのぞいてみてくださいね。