降水量1mm未満の日が日本で一番多く、災害も非常に少ないことから、映画やドラマの撮影スポットとして注目されている岡山県。市街地からクルマで30分圏内に、海、山、古い街並みなどがあり、田舎の風景や島、高原など豊富なロケーションがそろっています。
「晴れの国岡山は、日本のハリウッドだね!」
そんな声が高まって、誰が呼んだか「HALLE WOOD(ハレウッド)!」。
「HALLEWOOD」の立役者であり、全国の映像制作会社が頼りにするというすご腕コーディネイターの妹尾真由子さんが、知られざるロケの裏側やさまざまなエピソードを通じて、岡山の魅力を紹介していく連載です。
《連載第54回》完成披露が決定! ロケ支援作品2作の撮影エピソードを紹介。
みなさん、こんにちは。
岡山県フィルムコミッション協議会の妹尾真由子です。
 
前回のコラムで告知していた通り今回は、11月に完成披露されるロケ支援作品から、松田美由紀監督『カラノウツワ』、地域特別作品『喜⼋』の撮影時の思い出についてお話したいと思います。

松田美由紀監督『カラノウツワ』
はじめにご紹介する松田美由紀監督『カラノウツワ』は、2025年5月に備中エリアを中心に撮影を3日間行いました。
4月に制作スタッフとロケハンを行い、5月初旬と下旬に監督を含めたロケハン、5月28日~30日にロケを実施しました。
この作品のメイン舞台は「パチンコ店」。最初のオーダーは、昔ながらのギラギラした感じのパチンコ店ということだったのですが、最近はスタイリッシュな外観の店舗が多く、廃業になってそのまま建物が残されているようなパチンコ店くらいしか該当しませんでした。
また、もう一つ衝撃を受けたのは、私自身パチンコ店と縁が無く、現在のパチンコ店がどういうものかを知らなかったということもあるのですが、ロケハンで入店した際に、玉がパンパンになった箱を通路に積み上げて煙草の煙がすごそうといった映画やドラマで見たことのある光景ではなく、喫煙スペース以外では店内全館禁煙だったり、玉はパチンコ台の中でぐるぐる回るらしく、昔のようにジャラジャラ出てこず、通路に積み上げられた箱はどこにもありませんでした。
またアニメコラボのパチンコ台が多く、それぞれ3Dでアニメキャラクターなどが飛び出していて、なかなかの迫力がありました。監督にも今のパチンコ店はこのような感じのようですとお伝えし、そこで何ができるかを考えていただきました。
他にも、パチンコ店の常連女性が住む家は、ポツンと感のある平屋の小さな一軒家でレトロな感じということで、自治体の空家バンクなども相談し、数件の物件を提案しました。ロケ候補地でいくつか監督にお見せした際に、「もっとそこのトタンのような色味のある…」と希望を聞いた際に、ロケ候補地として提案した中で、監督ロケハンから外されていた物件が言われているイメージと近かったので「監督!ここから徒歩で1~2分のところに、トタンの雰囲気の物件があるので、そこも一度見てみませんか」とお伝えし、歩いて向かうことに。
監督が「そう! これ」とおっしゃってくださり、最有力候補に!
急いでその市の市営住宅を管理している部署の担当者に連絡して鍵を現場まで持ってきてもらい、中も確認。
「ここで行きましょう!」と決まった時には、「よかった~」と安心しました。
その後、喫茶店も、聞いていたイメージが「昭和レトロで木の感じ」ということでいくつか提案し、監督ロケハンで希望された喫茶店にお連れしたのですが、監督のイメージとは異なったようで、昭和レトロでもポップな感じで…と言われ、パッとひらめいたのが、以前に岡山出身俳優の小林虎之介さんの写真集でロケ地協力頂いた「サンレモン」。
ちょうど店休日だったため、この日は外観しか見られなかったのですが、ネットにあがっている店内写真と外から雰囲気を確認して、「そう!! これよこれ!」とテンションが上がった監督はとても可愛くはしゃがれていました。
こうして、一つひとつこだわりのロケーションが決まり、撮影日まで時間がなかったので、私は撮影に必要な道路使用などの許可申請やロケ地との調整のため、バタバタと走り回りました。
撮影時は、モニター越しに映る画を見守り、営業中のパチンコ店でも目立ったトラブルもなく、淡々と撮影が進みました。
モニターで見ていた画がどのように編集されて一つの作品になっているのかとても楽しみです。
地域特別作品『喜⼋』
次に紹介するのは、学生たちがプロのクリエイターと一緒にワークショップで作成した、岡山県地域特別制作作品『喜八』です。
この作品は、猛暑日が続く中、8月10日にロケハン、翌週の16日(土)~17日(日)の2日間でロケを実施しました。
7月末に制作部から、舞台が「蕎麦屋」で撮影協力頂けるような場所を探していると相談があり、撮影日も決まっていて、ちょうどお盆シーズンと被り土日ということもあり、営業中のお店でご協力頂けるところがなかなか見つかりませんでした。
各自治体のFC担当者も情報収集の為、店舗に確認してくださったり、私も土日休みの店舗に実際に出向き説明をさせてもらったり…。ただ、なかなか条件も厳しくかなり苦戦を強いられました。
制作部から、「今日の夕方までに」と急かされたとき、高梁市の吹屋にあった2025年3月に閉店した「吹屋食堂」が閃き、すぐに地元に相談し、確認していただきました。
すぐに回答が欲しいと無理を言ったにもかかわらず、所有者や当時営業されていた店主に確認をとってくださり、「条件詰めるのはこれからにはなるが協力可」ということで回答があり、すぐに制作部に提案させていただきました。
監督たちもOKということで、ロケハンまでに無事に候補地として提案することができました。
ロケハン時は大雨でしたが、学生とクリエイターの方々は片道2時間程かかるロケ地となる「吹屋食堂跡」に来てレイアウトやカメラの位置、必要な美術装飾等、細かく打ち合わせを行いました。
撮影まで1週間を切っていたので、道路使用許可を急いで申請し、市の観光協会の方に同行してもらい町の方々に案内文書を持って挨拶回りをしました。
撮影当日は普段とは異なり、一度全体ミーティングで一日の動きや進め方等説明をした上で、学生は4チームに分かれてカメラ、演出、照明、録音のそれぞれの仕事をプロに教わりながら体験していきました。
私が制作側にお願いしたことは、「撮影はそれまでの下準備(調整)が大切。地域の方々の協力のもと成り立っている」ということを必ず理解してほしいということでした。
それは今回、整えられた現場からのスタートなので、もし、将来実際に制作者として映像制作に携わることになった際に、きちんと地域へ理解を求め協力体制を整えた上で撮影をして欲しいからです。地域が協力してくれるのは当たり前に思わないでということを強く伝えました。
それを制作側も理解してくださり、最初の全体ミーティングでしっかり伝えてくれました。
様々なタイプの学生が参加していましたが、みんな、映像制作の楽しさや一つでも何か気付きになるよう真剣に取り組んでいる姿が印象的でした。

自分たちが携わった作品が多くの方の目に触れたときに感じた想いを大切にして、今後、映像制作の道、また全く違う道に進んだとしても、その時経験したことは、必ず一人ひとりの人生にとってかけがえのない出来事として刻まれると思います。
今後も、様々なことにチャレンジしていく学生たちを応援していきたいと思います。

この作品を楽しむには、11月15日(土)に『イオンシネマ岡山』&『杜の街グレース』で開催される「岡山フィルムプロジェクト上映祭セレモニー」にご参加ください。
【Profile】

岡山県フィルムコミッション協議会
妹尾真由子
矢掛町出身。2013年に矢掛町入庁。産業観光課での勤務時代には、ご当地キャラ・やかっぴーとともに町の観光PRを担当。2016年より岡山県観光連盟に出向。2018年より岡山県フィルムコミッション協議会の専任スタッフに
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