降水量1mm未満の日が日本で一番多く、災害も非常に少ないことから、映画やドラマの撮影スポットとして注目されている岡山県。市街地からクルマで30分圏内に、海、山、古い街並みなどがあり、田舎の風景や島、高原など豊富なロケーションがそろっています。
「晴れの国岡山は、日本のハリウッドだね!」
そんな声が高まって、誰が呼んだか「HALLE WOOD(ハレウッド)!」。
「HALLEWOOD」の立役者であり、全国の映像制作会社が頼りにするというすご腕コーディネイターの妹尾真由子さんが、知られざるロケの裏側やさまざまなエピソードを通じて、岡山の魅力を紹介していく連載です。
《連載第15回》「劇場版ラジエーションハウス」編
みなさん、こんにちは。岡山県フィルムコミッション協議会の妹尾真由子です。
映画『とんび』が公開され1カ月以上が過ぎ、まだまだ『とんび』熱が冷めない状況の中、立て続けに、岡山県内でロケが行われた『劇場版ラジエーションハウス』が、ゴールデンウイーク前に全国公開されました。
「ラジエーションハウス」は人気連載中の漫画が原作で、病院の放射線科「ラジエーションハウス」を舞台に、病の原因を探り、診療放射線のエキスパートたちの戦いを描いた作品。
人気俳優の窪田正孝さんを主演に2019年4月期と2021年10月期にドラマ化され、今回満を持しての映画化となります。
今回の映画の舞台となる離島のシーンの撮影を、笠岡市の真鍋島でも行いました。
相談があったのは、2020年の9月頃。ロケ地候補として、実際のロケ地となった真鍋島以外にも笠岡諸島のひとつである六島や、そのほか香川県の島々の名前も挙がっていました。
同年11月にロケハンで来ていただく際は、コロナの感染拡大後ということもあり、感染症対策のガイドラインの順守はもちろんのこと、島に上陸する前のPCR検査や消毒等を徹底し、監督やプロデューサーなど最小限の人数での上陸をお願いしました。
ロケハン当日は私が別件で対応ができなかったため各所手配や調整だけを行い、当日の同行は笠岡諸島フィルムコミッションの担当者にお願いをして、地元ならではの目線で島の隅々までご案内していただきました。
そしてロケハン後に制作会社の担当者の方から、「島の雰囲気や、港付近にある『真鍋島保育所』の立地条件などが非常によかったので、有力候補として話を進めたい」というお言葉を頂きました。
©2022横幕智裕・モリタイシ/集英社・映画「ラジエーションハウス」製作委員会
コロナの感染拡大が始まって1年が経ち、勢力を弱めることなく大都市圏だけではなく地方での感染も広がる中で、4月に入って島の住民の方々を対象に、ロケ受入れについての説明会を開催させていただきました。
説明会では、作品の説明はもちろんのこと、撮影スケジュールや撮影内容と併せて、撮影隊の新型コロナウイルス感染予防対策についてきちんとお伝えさせていただきました。
その上で、「私は、皆さんの意見を尊重したいと思います。もし、受け入れたくないということであれば制作側にきちんとお断りします。ただ、もし、受け入れてもよいということであれば、全力でサポートします。皆さんの率直な気持ちを教えてください」とお話ししてご意見を伺いました。
予想していた通り、前向きな意見ばかりではありませんでした。島の住民の多くの方々がご年配の方で「この時期になんで?」というご意見があるのもごもっともなことでした。
しかし、さまざまな意見を交わしていく中で、「島に入るまでの2週間前から徹底した行動管理をし、現場での感染対策も含め、これだけきちんと感染症予防をしてでも真鍋島に来たいという撮影スタッフを排除するのはおかしいのではないか。島の活性化に役立つのであれば協力したい」といった前向きなご意見も出てきました。
最終的に、島の住民として「受け入れます」と言ってくださった際には、心の底からうれしかったです。
そして、ここからが勝負でした。
住民の方々が2回目の予防接種を受けるまでは、できるだけスタッフの上陸は最小限にとどめることを徹底しました。
『真鍋島保育所』の園庭にロケセットの診療所を建てる作業も、通常であれば撮影隊の美術スタッフが島に入って仕上げていきますが、今回は、本土で地元の工務店が美術スタッフと打ち合わせを行い、実際に現場での建設作業は地元大工さんが行う…という今までになかったパターンでした。
そして、ロケハンも出来るだけギリギリまで大人数で上陸しないための方法として、まず私が島に上陸し、テレビ電話機能を活用しての「オンラインロケハン」を実施するなど工夫を凝らしました。
これらのとおり、コロナ禍ならではの大変さはありましたが、笠岡諸島フィルムコミッションの担当者が地元調整などを徹底して行ってくださり、スタッフが上陸した際には、島でのルールや人と人とをつなぐ作業の多くを担ってくれました。
また撮影時も、何度も変更になるエキストラ対応も、できるだけ島の方々を中心に参加してもらうことで感染リスクを低くしたり、島ではかなり大変な撮影隊の食事のサポートをしたりと、率先して対応して下さったので安心してお任せしていました。
こうした中、無事に10日間の撮影期間を経て、今皆さんが劇場でご覧になっている『劇場版ラジエーションハウス』の物語の一部に真鍋島の風景が刻まれています。
ロケ地にはもう、診療所や港のロケセットはありません。
そのかわり、専用の二次元バーコードを読み取ればロケ風景やセットの様子を見ることができるなど、聖地巡礼で訪れた方々にも楽しんでもらえるような仕掛けを準備して待ってくださっています。
劇場で楽しんだ後は、ぜひともロケ地となった真鍋島に足を運んでいただきたいと思います。
作品データ
【タイトル】
「劇場版ラジエーションハウス」
【劇場公開日】
2022年4月29日より全国東宝系にて公開中
【ストーリー】
72時間—。それは、人の生死を分ける時間。
甘春総合病院の放射線技師・五十嵐唯織(窪田正孝)は落ち込んでいた。大好きな甘春杏(本田翼)が、放射線科医としての腕を磨くため、ワシントン医大へ留学することが決まったからだ。
「72時間を切ってしまいました」お別れまでのカウントダウンを胸に刻む唯織のことを、ラジエーションハウスのメンバーは元気付けようとするが、唯織への秘めた想いを抱える広瀬裕乃(広瀬アリス)だけは、自らの進むべき道について悩んでいた。
そんな中、杏の父親・正一が危篤との連絡が入る。
無医島だった離島に渡り小さな診療所で島民を診てきた正一だが、杏が父のもとに着いてほどなく「病気ではなく、人を見る医者になりなさい」との言葉を残し息を引き取る。
生前、父が気に掛けていた患者のことが気になり、島に一日残ることにする杏。
そこに大型台風、土砂崩れ、そして未知の感染症が襲いかかる。
遠く離れた地で杏が孤軍奮闘していることを知った唯織は、大切な仲間を守るため、苦しむ島民を救うため、ある決心をする。
8人の技師たちが選んだ未来とは。「別れ」の時刻が近づいている―。
【キャスト】
窪田正孝 本田翼 広瀬アリス
浜野謙太 丸山智己 矢野聖人/山口紗弥加/遠藤憲一
鈴木伸之 八嶋智人 髙嶋政宏 浅野和之/和久井映見
【スタッフ】
原作:『ラジエーションハウス』(原作:横幕智裕/漫画:モリタイシ/集英社「グランドジャンプ」連載)
脚本:大北はるか
音楽:服部隆之
監督:鈴木雅之
主題歌:MAN WITH A MISSION『More Than Words』(ソニー・ミュージックレコーズ)
【岡山県内撮影時期】
2021年7月9日(金)~19日(月)
【県内ロケ地】
真鍋島(笠岡市)
【ロケ地紹介特集ページ】
https://www.okayama-kanko.jp/feature/radiationhouse/top
【「劇場版ラジエーションハウス」公式ホームページ】
https://radiationhouse-movie.jp/
岡山県フィルムコミッション協議会の詳細は下記から。
【Profile】
岡山県フィルムコミッション協議会
妹尾真由子
矢掛町出身。2013年に矢掛町入庁。産業観光課での勤務時代には、ご当地キャラ・やかっぴーとともに町の観光PRを担当。2016年より岡山県観光連盟に出向。2018年より岡山県フィルムコミッション協議会の専任スタッフに
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