降水量1mm未満の日が日本で一番多く、災害も非常に少ないことから、映画やドラマの撮影スポットとして注目されている岡山県。市街地からクルマで30分圏内に、海、山、古い街並みなどがあり、田舎の風景や島、高原など豊富なロケーションがそろっています。
「晴れの国岡山は、日本のハリウッドだね!」
そんな声が高まって、誰が呼んだか「HALLE WOOD(ハレウッド)!」。
「HALLEWOOD」の立役者であり、全国の映像制作会社が頼りにするというすご腕コーディネイターの妹尾真由子さんが、知られざるロケの裏側やさまざまなエピソードを通じて、岡山の魅力を紹介していく連載です。
《連載第12回》映画『とんび』編 ③
みなさん、こんにちは。岡山県フィルムコミッション協議会の妹尾真由子です。
「とんび編」シリーズ第3弾となる今回は、ロケ誘致決定からロケスタートまでの準備期間の様子をお伝えします。
「岡山でロケします」と言われてからロケまでの数カ月の期間は、非常にあわただしく過ぎていきました。
岡山ロケは決定しましたが、このときはメイン舞台となる「広島県備後市」設定の町並みが「金光町大谷地区」に決定したというだけ。
ここから地域住民の方々へ正式に協力要請をしたり、まだ決まっていないロケーションを探したり…といった、非常に重要な任務が残っていたのです。
そのため、ひと息つく間もなく「海沿いにある平屋の一軒家」や「海が見える寺」を求め、製作スタッフと一緒に県内を西から東まで、海沿いを行ったり来たりしながらくまなく走り回りました。
例えば、「海沿いにある平屋の一軒家」。
ちょうどこの時は、コロナの感染者が一時的に低い水準ではあったものの、首都圏から移動してきたばかりのスタッフと地元の方々との接触を最小限にするため、念には念を入れてまずは私が交渉を行うことに。
イメージに合う平屋を見つけると、一軒一軒とりあえず「ピンポン」を鳴らしてみることから始めます。
セールスや怪しい人だと思われることもあるので、まずは名刺を差し出して私がどのような人物かをきちんと説明した上で、「県内で映画の撮影を予定しており、撮影できる一軒家を探しています…」といったお話をさせていただきます。
もちろんお断りされることも多いのですが、まずは話を聞いていただくことが第一歩です。
そこで了承いただけてはじめて、スタッフも合流して一緒にロケハンさせていただく…といったことを徹底していました。
そんな地道な作業を行っていくと同時に、空き家バンクなどのホームページで物件探しも実施しました。
「海が見えるお寺」については、マップを見ながら県内の海沿いにあるいくつものお寺を見て回り、寺からの「海の見え方」などをチェックしました。
結果的には、倉敷市の『海蔵寺』が墓地のシーン、備前市の『柳青院』が寺のシーンと、2つのお寺を組合せて、ひとつの『薬師院』を描くこととなりました。
『海蔵寺』は過去に「釣りバカ日誌18」のロケ地になった場所でもあり、小高い位置にあって遠くには穏やかな寄島の海が臨めます。
一方の『柳青院』は門越しに海が見えたり、何より木造で広い縁側のような廊下や木製のサッシが趣のある風情を醸し出しています。
それぞれ非常に魅力的なお寺だったのですが、ここでひとつ問題が…。それはまさかの、それぞれに宗派が違うことでした。
劇中に葬儀のシーンも出てくるため、どちらかの宗派に合わせる必要があります。調整の結果、『海蔵寺』の宗派に合わせて演出することとなりました。
葬儀のシーンではキャストの方がお経を読むため、お経ならではの独特な読み方や呼吸の仕方などをキャストの方が身につける資料として、『海蔵寺』のご住職が読むお経を録音させていただいたり…。
劇中で身に着ける袈裟などの衣装も『海蔵寺』のご住職の物をお借りし、葬儀シーンの祭壇のセッティングは海蔵寺からご紹介いただいた葬儀屋さんにお願いしたり…。細部までこだわって準備がされていきました。
そして10月に入ってから、監督含めた各部署のリーダー的ポジションの方々が集結して現地を確認する「メインロケハン」を2回実施しました。
刻々とクランクインが近づく中で、最後の最後までロケ地を丁寧に見て回り、自分たちの思い描くイメージを実現できるよう、ロケ地を選定されていく姿が印象的でした。
それと並行してヤスたちが住む商店街のロケ地となった「金光町大谷地区」では、昭和レトロな町並みを作り上げるための看板設置や店内装飾など、美術装飾作業の着工は地元の協力なしには進められないため、住民の皆さんを対象とした地元説明会を開催しました。
話合いは進んでいき、最終的に「地域が活性化されるのであれば」とご承諾いただけたときには、本当にうれしくて感謝をすると同時に「地域の人たちの期待を裏切ってはいけない!」という思いがこみ上げてきました。
その後、工事が進むにつれて町並みが変わっていくとともに、クランクインを迎える頃には美術装飾スタッフたちと地元の方々の交流が目に見えて分かったので、ほほえましい気持ちにもなりました。
また、「せっかくの機会なので、できる限り地元の皆さんに撮影に参加していただきたい!」という思いから、大谷地区での撮影の際のエキストラ募集は地元の住民の方々を対象とすることに!
市の職員さんと3人で手分けしてエリアを分け、約300件のお宅に募集チラシをポストインして回りました。
申込みをしていただくにあたっても、インターネットなどが苦手な方も多いとのことだったので(通常エキストラ募集の際にはネット応募を活用します)、ネットに加えて地域にポストを設置して、そこに手書きの用紙で申し込めるような方法を取りました。
その甲斐もあって、お子さんからご年配の方まで、幅広い層の皆さんが申し込んでくださいました。
コロナ感染拡大以降、初めての大規模撮影の受入れだったため、普段の対応とは違ってうまくいかないことも多くありました。
しかし地元の皆さまのご協力もあって、スタッフさんたちとともに撮影に向けた準備を着々と進めることができたのです。
次回はシリーズ最終回。岡山ロケの様子をお届けします。
作品データ
【タイトル】
とんび
【劇場公開】
2022年4月8日(金)
【ストーリー】
昭和37年、瀬戸内海に面した備後市。運送業者で働くヤス(阿部 寛)は、今日も元気にオート三輪を暴走させていた。
愛妻・美佐子(麻生久美子)の妊娠に嬉しさを隠せず、姉貴分のたえ子(薬師丸ひろ子)や幼馴染の照雲(安田 顕)に茶化される日々。幼い頃に両親と離別したヤスにとって家庭を築けるということはこの上ない幸せだった。
遂に息子・アキラ(北村匠海)が誕生し「とんびが鷹を生んだ」と皆口々に騒ぎ立てた。しかしようやく手に入れた幸せは、妻の事故死で無残にも打ち砕かれてしまう。
こうして、父子二人きりの生活が始まる。母の死を理解できないアキラに、自分を責めるヤス。和尚の海雲(麿 赤兒)は、アキラに皆が母親代わりなってやると説き、雪が降っても黙って呑み込む広い海のようにアキラに悲しみを降り積もらすな―「お前は海になれ」と、ヤスに叱咤激励するのであった。
親の愛を知らずして父になったヤスは、仲間達に助けられながら、我が子の幸せだけを願い、不器用にも愛し育て続けた。
そんなある日、誰も語ろうとしない母の死の真相を知りたがるアキラに、ヤスは大きな嘘をついた──。
【キャスト】
阿部 寛
北村匠海 杏 安田 顕 大島優子
濱田 岳 宇梶剛士 尾美としのり 吉岡睦雄 宇野祥平 木竜麻生 井之脇海 田辺桃子
田中哲司 豊原功補 嶋田久作 村上 淳
麿 赤兒 麻生久美子 / 薬師丸ひろ子
【スタッフ】
原作:重松 清「とんび」(角川文庫刊)
監督:瀬々敬久 脚本:港 岳彦 音楽:村松崇継
主題歌:ゆず「風信子」
【県内撮影時期】
2020年11月~12月
【県内ロケ地】
・浅口市(金光町大谷、青佐鼻海岸)
・笠岡市(金浦地区、西中学校、金浦幼稚園、旧大島東小学校、原田荘、神島の道)
・倉敷市(海蔵寺、旧玉島第一病院、玉島の道、ドラム缶橋、呼松漁港、呼松神社、沙美海岸)
・瀬戸内市(旧錦海倉庫)
・備前市(柳青院)
・美咲町(柵原ふれあい鉱山公園)
・岡山市(東湯)
・玉野市(由良病院)
岡山県フィルムコミッション協議会の詳細は下記から。
【Profile】
岡山県フィルムコミッション協議会
妹尾真由子
矢掛町出身。2013年に矢掛町入庁。産業観光課での勤務時代には、ご当地キャラ・やかっぴーとともに町の観光PRを担当。2016年より岡山県観光連盟に出向。2018年より岡山県フィルムコミッション協議会の専任スタッフに
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