※閉店しました。
歴史あるお店が好きです。もちろん新しいお店は大好き。でも年月を重ねて生まれるエピソードはどれも味わい深く…。新店だって、続ける限りいつかは老舗ですから。
しかし倉敷市の有名店『萬福食堂』には「懐かしの昭和な風情」や「はるかノスタルジー」なんて甘っちょろい感傷ではおさまりきらない、「無骨なサムシング」が渦巻いてます。何度か個人的に訪問済ですが、その度に思い知らされるのが「このお店のことを知らな過ぎる!」という確固とした現実。いやワタクシだけでなく、きっとあなたも知らないはず! そうでしょ?(決め付け)。ただ、断言できるのは、無闇に歴史があるだけでなく、味わい深い「倉敷のラーメン」を提供し続けているお店であるということです。歴史があるから話題になるのではなく、人気(実力)あればこそ歴史があり、そこから独自の「萬福食堂ワールド」が生まれていると。ともすれば外観のレトロさや、独自すぎるお水用のコップ(後述)などばかりが注目されますが、今回は未知の部分にこそ迫ってみたいと思います。あ、当然店舗の風情やお水のコップにも迫りますのでご安心を(笑)。よもやワタクシが触れないとでも(笑)?
お店に入るや否や、常連さんが昼間からおでんにビールです。「初めて入ったときは、本当に営業しとるんか不安だったで!」と常連のおっちゃん。お察しします。ご主人の難波勇さんもその言葉には大笑い。聞けばオープンしてから52年とか。創業50年超の老舗はほかにも存在します。しかし「時をかける」かのように、往時そのままな雰囲気を残しているお店は本当に希少! 普通はリニューアルとかしますもん。建物はさらに古いですよね? 「少なくとも戦前からある建物らしいなぁ」。木造で築75年以上…。4分の3世紀が経過とは、かなり年季が入っていますね。「わしらのカラダもガタがきとるけぇ」。いやいや。まだまだお元気じゃないですか! 「今から4、5年前にラーメンをメインにしてメニューを絞ったんよ」。以前は色んなメニューがあって、まさに食堂でしたもんね。「オムライスや焼き飯が人気だった…。でも、もう仕込みとか、調理とかが辛くなってきてなぁ」。
人気の「やきぶたラーメン」650円です。「ベースは鶏ガラのみ。それに4、5種類の野菜を入れるんよ。さらに加えるんが、このやきぶたから出る煮汁!」。自慢のチャーシューは、秘伝の味付けで7時間は煮込まれます。倉敷は鶏ガラベースでしょうゆが濃い印象がありましたが。「ウチはそんなに濃くはねぇと思うよ」。スープをすすると、確かにキリッ&スッキリ系です。にしてもこのチャーシューは確かにうまい。はしで強くつまむと崩れるほどホロホロですし。この丼も今や希少ですよね。龍がぐりんぐりんしてるやつです(「クラッシックドンブリ・タイプA」と命名!)。あ、そういえば、お水用コップはワンカップなんですね。ワンカップなのはいいとして(ええんかい!)、なぜ銘柄が全部「甘酒」なんですか? 「ワハハ。そりゃわしら夫婦が一年中、毎日飲んどるからよ」。どんだけ甘酒好きなんですか?! 皆さん安心してください。頻繁に新カップに代わってます!
「親父が川上郡川上町(現・高梁市)で食堂をやっとって、人口も減ったから倉敷に出てきてオープンしたのが52年前」とご主人が語られます。昭和39年ごろですかね。「ワシは当時、陸上自衛隊で北海道の千歳基地に配属されとって…」。元自衛隊員でしたか!? 「除隊して帰ってきたのが同じ頃で、手伝うたんよ。お袋と親父と3人でここに立ったわ」。当時からここだったんですね。「それから妻と一緒になってな。しばらくは4人で仕事をしたんよ」。横で妻の富美子さんが優しく微笑まれます。そのころからラーメンを? 「オープン当時からじゃ。アレンジはしてきたけど、基本は変わらんなぁ」。昔からこういう味だったんですね。開店して約10年後に父上が亡くなられ、それからはずーっと店主として腕を振るってこられたとか。「ここ3年で4人が弟子入りを志願して来られたけど、お断りしたんよ」。えっ? なんでですか! 「年や体のこともあるし、人に教える柄じゃねえんじゃ」。
クルマで通りかかったGACKTさんが「ちょっと止めて!」と言って来店されたエピソードが有名です。あの方をご存知でした? 「知らん」。やっぱり! 「2005年10月25日の昼時でな。満席で、『何人ですか?』て聞いたら『大勢です』いうて言われたから、お願いして外で20分ほど待ってもろうたんよ」。天下のGACKT様を外で20分待たせたと! その間に撮られた写真がファンクラブの会報誌にも載ったんじゃ」。そして当日のライブのMCでこのことを話したらしく、「次の日に若いお嬢さんがいっぱい来てな。ビックリして理由を聞いて、初めて知ったわ。使うたはしとか、ドンブリとか、座ったイスをくれ! 言われてな(笑)」。そんなん無理ですから。みんな落ち着けって! で、その格付けキングが召し上がったのがこの「特上ラーメン」700円。20年来のメニューで、まさに「早すぎたガッツリ系」。シャキシャキのもやしをしんなりさせて食べるのが最高に美味です。
まともに話すのは初なのに意気投合。帰りは2人で見送りに出てくれました。本当にいいご夫婦。って、さっきの常連のおっちゃんまだ一杯やってますからっ! お客ほったらかし!
すごいのはルックスだけにあらず。倉敷を代表する実力店!
ビンテージな店がまえや、有名芸能人訪問の話題だけでなく、確かな味で「倉敷でも屈指の実力店」と、食通をうならせる1軒。麺は中太のストレート麺で、スープのうまみを十分に生かして抜群のマッチングを見せている。食堂時代から人気だった「玉子酒」400円があるのもラーメン店では…、いや、飲食店全般でも珍しいだろっ! デフォルトの「ラーメン」は500円。人気の「牛肉ラーメン」750円は、奥さんが調理専門とか。その理由は「牛肉の扱いがうまいんじゃ」。店内に飾られている10本前後の福を呼ぶ熊手は次女が、厨房内にある10種前後の稲荷のお飾りは長女が、毎年送ってくれるものだとか。「本当は毎年奉納をするべきだけど、ありがたくて手放せんのよ。おかげでたまる一方で…」と奥さんが両親思いの娘たちへの感謝の思いを語る。店外に設置されている手作りの2つの看板は、店主の小学校時代の同級生が教員生活を定年した後に贈ってくれたとか。現代社会が失ったと言われて久しい人情、倉敷は羽島で健在だ。
Information
萬福食堂
- 住所
- 倉敷市羽島198 [MAP]
- 電話番号
- 086-425-4856
- 営業時間
- 11:00~18:00
- 休み
- 第3水曜
- 席数
- 15席
- 駐車場
- 8台