岡山メルパ 福武 孝之館長
映画業界20年、老舗映画館を切り盛りする名物館長。映画が持つ「観ることで、自分の世界が広がる」魅力を広めるべく、多彩なイベントを展開。ジャンルや制作者にこだわらない、テキトーな鑑賞が映画愛を高める秘訣。映画が好き過ぎて、あこがれのターミネーターに変身。特殊メイクがんばりました!
「邦題」
映画にとってタイトルは重要である。大ヒットするか!大コケするか?そのタイトルがカギを握っている。
映画は前金商売である。観終わってからお金を返すことはない。映画にはクーリングオフも返品交換もないのである。したがって観客は鑑賞前にその作品の価値を見極めなければいけない。となるとタイトルは重要な手がかりである。もちろんチラシやポスター、特に予告編などは観るかどうか決める大きな情報源であるが、そこにたどり着くまでに、まずタイトルに出会うはずだ。
興味が湧いてくるタイトルが欲しいところだが、もしそれが知らない英単語だったらどうだろう・・・?
そこで登場するのが“邦題”である。
日本人に分かり易く、その作品の魅力を簡潔に伝えることが出来るタイトルに変えるのだ。外国映画の中で英語のタイトルはまだましなのかもしれないが、それでも、使われている英単語が一般に周知されているかどうかは重要である。
例えば「BONNIE AND CLYDE」(1967年アメリカ映画)はどうだろう? 日本語表記なら「ボニー アンド クライド」。当時なら辛うじて人の名前だとわかる程度ではないだろうか? 今でこそ、その邦題が名作として周知されている「俺たちに明日はない」であるが、当時もし原題のままで公開されていたらどうなっていたことか・・・?
とにかくこの邦題は素晴らしい! もちろんタイトルの意味は映画を観終わって、あらためて心にしみてくるのだが、観る前から興味を引き付ける要素も詰まっている。
“俺たち”とは誰と誰なのか? “明日はない”のはなぜなのか?
こんな疑問を持たせつつ、実は“俺たち”とは私たちのことであり“明日”は未来を意味するので“私たちの日常に楽しい未来なんてない”と言っていることになる。だから今を生きる!という刹那主義が当時の日本でなんとなくカッコ良かったのであろう。
邦題は原題の和訳だと思っていたら大間違いなのである。
例えばメグ・ライアンとトム・ハンクスの大ヒットラブストーリー「めぐり逢えたら」(1993年アメリカ映画)の原題は「Sleepless in Seattle」“シアトルの不眠症”である。
コケる・・・間違いなく・・・。
「ハムナプトラ」(1999年アメリカ映画)はどうだろう。原題は「MUMMY」である。「マミー」で公開したら、日本ではお母さんの物語か、乳酸菌飲料ではないか!?だからといって和訳をすると「ミイラ男」である。
これもコケる・・・すさまじくコケそうである。
邦題命名の妙は外国映画の日本での大ヒットに大きく貢献していて、それを知りながら映画鑑賞すると、作品を更に楽しめるのである。
さてそこで、10月31日(土)より公開される洋画に、原題で「PAN」“パン”という作品がある。
この流れだとパン屋さんの映画でないことは確かだが、日本での公開タイトルは「PAN ネバーランド、夢のはじまり」なのである。
そう、パンはピーターパンのパンである。今回はあえて“パン”だけで観客を引き付ける作戦だ。今までのピーターパンの映画化とは何かが違うのだ! フック船長だけではなく最強の海賊“黒ひげ”も登場するぞ。しかも演ずるはヒュー・ジャックマンではないか!
ただ事ではない。空を悠然と飛ぶ海賊船を見るだけで興奮を隠せない私だが、これは間違いなく大人の観るピーターパンという夢なのだろう。
邦題のアレコレを語りだすとキリがないのだが、この邦題命名に変化が起こっていることを次回書こうと思っている。 つづく・・・・・。
岡山メルパ館長 福武孝之