岡山メルパ 福武 孝之館長
映画業界20年、老舗映画館を切り盛りする名物館長。映画が持つ「観ることで、自分の世界が広がる」魅力を広めるべく、多彩なイベントを展開。ジャンルや制作者にこだわらない、テキトーな鑑賞が映画愛を高める秘訣。映画が好き過ぎて、あこがれのターミネーターに変身。特殊メイクがんばりました!
「神様メール」
たまにヨーロッパ映画を観るとドキッとすることがある。
文化の違いからか、こんな発想は自分にはなかったなと思うのだ。
それは往々にして宗教の違いが影響していると考えられるが、神様の話となると軽はずみな発言は慎みたい・・・(今日のワタクシは冷静!)
そこで今回ご紹介する作品は、神様がパソコンで人類を作ったというお話だ。
いいのか?このオフザケ???
主人公は10歳の少女“エア”。お父さんは神様でブリュッセルのアパートに住んでいる。(おいおい!) パソコンで世界を作り、そこに人類を作り出した。つまり現代の街並みを先に作ってから、人を作った。(もう全くつじつまが合わないが、それは神のみぞ知る)
この神様が最低のゲス野郎。人に起こる不幸は全て神様のいたずら(パソコンで)という設定。一歩もアパートから外出させてもらえないエアは、ある日絶対に触ってはいけない神様のパソコンで全ての人々に余命告知メールを一斉配信する。そして大パニックになった下界に飛び出していくエア(ただの外出)。ちなみにお兄ちゃんはイエス・キリスト。人間に張り付けにされ出戻って小さくなっている。(これダメでしょ!)
こんな荒唐無稽な設定だが、ここからがおもしろい。
余命を正確に教えられたら人はどうするだろう? はじめは誰も信じないが、予告通り正確に余命がまっとうされると、みんなが余命を受け入れるようになる。
あと2分と言われればどうするか?
逆にあと100年と言われればどうだろう?
ではあと30年と言われれば、それは長いのか短いのか?
明確に余命が出たと言うことはそのときまでは死なないということである。この逆転の発想が物語を100倍面白くする。
神様は余命を教えないことによって人々を支配していたのだ。
人は自分の余命がわかったとき、絶望する一方で自分の本当にやりたかったことをやり始める。一度しかない自分の人生、いつ終わるからない人生だからこそ、やりたいことをやるべきなのに、「なぜ正しく生きないのか!?」と問いかけてくる。
6人の主要人物の行動をオムニバスで展開する本作は、10歳の少女“エア”(一応神さま)の目線でズバリ現代人の矛盾に切り込んでくる。
そして本作はフランス・ベルギー・ルクセンブルクの合作ヨーロッパ映画である。そのためか6人のエピソードが刺激的なのだ。主人公が10歳なのにPG-12という制限がついている。(PG-12とは、12歳以下(小学生以下)は保護者の助言・指導が適当という規定)
6つの“すっごい”エピソードは劇場でのお楽しみとしておくが、きっと驚いていただけるだろう! 個人的には、決して子どもが観てはいけない映画だと思う。それはおっぱいがいっぱいでるからではなく、エアのセリフである「恐れないで好きなことをやろうよ、罰はないのだから」の意味を理解できないからである。
作品情報
- 『神様メール』
- 監督:ジャコ・ヴァン・ドルマル
出演:ビリ・グロワーヌ、カトリーヌ・ドヌーヴほか - 9月3日(土)~16日(金)まで2週間限定!
岡山メルパのみの上映
岡山メルパ館長 福武孝之