岡山メルパ 福武 孝之館長
映画業界20年、老舗映画館を切り盛りする名物館長。映画が持つ「観ることで、自分の世界が広がる」魅力を広めるべく、多彩なイベントを展開。ジャンルや制作者にこだわらない、テキトーな鑑賞が映画愛を高める秘訣。映画が好き過ぎて、あこがれのターミネーターに変身。特殊メイクがんばりました!
「ファインディング・ドリー」
「これは大人も楽しめるアニメーションです!」
よくある映画の宣伝文句だが、子ども向けのアニメーション作品を大人が楽しめるわけがない。
皆さんは、こんな宣伝文句にダマされてはいけない。もし本当に大人が楽しめるアニメ作品ならば、それはそもそも子ども向けではないのである。つまり、最近の劇場アニメは子ども向けではないのだ。もし、アニメ映画は全て子ども向けだと思い込んでいる人がいるならば、それは古い。劇場公開される長編アニメ作品には、それぞれ明確なターゲットがある。しかし、映画会社は幅広い年齢層に観てもらいたいので「大人も子どもも」と、欲張って宣伝しているが、それらはだいたいコケている。
ヒットの法則はこうである。大人が本当に面白いと唸るようなアニメを、子どもたちは背伸びをして観たがる。子どもは作品の全てを理解するわけではないが、アニメならではのキャラの魅力やカラフルな色使い、スケール感や荒唐無稽な展開などに魅力を感じ、十分に満足する。これにより結果的に子どもから大人まで幅広い年齢層に支持され、大ヒット作が誕生するのである。
これに長けているのが、ご存じディズニーアニメである。もちろんディズニーアニメは子どもに絶大な人気がある。しかし、劇場公開される長編アニメに関して言えば、確実に大人を楽しませるレベルで作られている。それはきっとご覧になる皆さんの方が、すでにお気づきだろう。大人の話をするならば、もし大人が退屈するような内容だった場合、巨額の製作費を回収できない、更に2次的な売上であるDVDやテレビ放映、テーマパークのアトラクションやパレード、何よりぬいぐるみをはじめとするグッズやアパレルなどの売上に多大な影響があるではないか! いやむしろ映画はビックマネーを稼ぎ出す一大プロジェクトの第一歩である。それが子ども限定であるわけがない。
そんな前置きをしながら今回は、この夏公開の『ファインディング・ドリー』を紹介するのだ。
前作は大ヒットした『ファインディング・ニモ』。公開当時ニモのモデルとなった「かくれくまのみ」が人気爆発で市場から消えたと話題になった。そのせいで「かくれくまのみ」を「ニモ」と覚える子どもの方が多かったのではないだろうか? その前作でユニークな脇役として登場した「ドリー」というキャラクターが今回の主役である。
しかしここに大きな難問がある。「物忘れ」が特徴のドリーは脇役としては抜群の活躍をし、前作では大きな笑いをとった。しかし今回、主役となると、どうしても「物忘れ」という特徴にスポットライトが当たってしまい、楽天的な明るい面より、欠点としての暗く悲しい面(ハンデ)が出てしまうのだ。この問題をディズニーはいったいどうやって笑顔と感動に変えていくのだろう!?
ぜひ、劇場でこの奇跡を観ていただきたいのだ。
きっと皆さんもこの結末には「お見事っ!」と立ち上がって手をたたきたくなるだろう。
ちなみに私は、あふれ出た涙がほおをつたい、首をつたい、胸まで行ってしまった。
人は自分の欠点と向かい合いながら生きている。しばしばディズニーアニメに登場するテーマだが、他人がそれを個性だと簡単に慰めても受け入れることは難しいのではないだろうか? ありのままの自分を必要としてくれている人がいるとわかった時、それが生きる力となり、元気になれる。
自分の欠点に悩んでいる人。コンプレックスを抱えている人。家族関係がうまくいっていない人。そんな大人たちは必見である。
そして、そんな悩みなど全くないと、のんきに生きている人こそ『ファインディング・ドリー』を観なければいけない! あなたは大事なことを“忘れて”生きてしまっているかもしれないからだ。
おそるべし『ファインディング・ドリー』
このタイトルの意味をあらためて熟考してみよう!
作品情報
- 『ファインディング・ドリー』
- 監督:アンドリュー・スタントン 製作スタジオ:ディズニー/ピクサー
- ☆同時上映(短編)『ひな鳥の冒険』←これがまた秀逸です!
監督:アラン・バリラーロ - 7月16日(土)~岡山メルパ他にて公開
岡山メルパ館長 福武孝之