岡山メルパ 福武 孝之館長
映画業界20年、老舗映画館を切り盛りする名物館長。映画が持つ「観ることで、自分の世界が広がる」魅力を広めるべく、多彩なイベントを展開。ジャンルや制作者にこだわらない、テキトーな鑑賞が映画愛を高める秘訣。映画が好き過ぎて、あこがれのターミネーターに変身。特殊メイクがんばりました!
「ゴールデン・ウィーク」
ゴールデン・ウィークには旅行に行く! それが定番となっている今日この頃。
悲しい限りではないか!
そもそも「ゴールデン・ウィーク」とは映画業界が作った和製英語である。
昭和26年の大映映画の大ヒットを機に、正月の映画興行に匹敵する、映画業界稼ぎ時の称号である。もちろん話題の映画を毎年この時期に公開しているが、昨今はめっきり旅行におされているではないか! それどころか「娯楽の王様」と呼ばれた映画は、その玉座を奪われて久しいのである。映画といえば「安・近・短」と三拍子揃ったレジャーとして庶民に最も愛された娯楽だったはずである。それはつまり“安・近・短”がすたれたということだろうか? 確かに現代は娯楽に満ち溢れている。
私の歳で言うのもはばかるが、昔はもっと娯楽のバリエーションが少なかった。例えばデートは、まずは待ち合わせ→お茶でも飲んで→映画を観る→感想を語りながら食事である。他にパターンは無かったのだ(言い過ぎ!) しかし、娯楽が増えたからと言って「安・近・短」の魅力がすたれるのは納得できない。
・安いに越したことはないだろう・・・? ちがうのか? 高いものに価値があるのか!
・でも近くが便利だろう・・・? いやむしろ遠い方が楽しいのか!
・さすがに時間には限りがあるので長期間は無理だろう・・・? なに!? 2日休めば10連休だとっ! それなら旅行に行ってください! (早くも降参)
いやいやここからが今回の本題である。
このコラムは本当のことをつい書いてしまうのだが、映画業界の一番の稼ぎ時は夏休み(お盆)である。続いてお正月。次に春休みからゴールデン・ウィークの期間である。つまりゴールデン・ウィークは3番目のシーズンの後半担当なのである。春休みに公開された作品はヒットすればゴールデン・ウィークまでロングランされる。この長期間の公開は夏休みに匹敵する価値があるのだが、意外とゴールデン・ウィークのみに向けての公開は少ないのだ。
つまり、映画業界発祥のシーズンといいつつ、その年の目玉商品が登場するわけではないのである。こんなことを書くと更に映画から足が遠のきそうだが、実はそうでもないのだ。確実に観客は来ている。なぜなら個性あふれる作品がズラリと並んでいるからだ。
確かに超大作で大ヒット間違いなし!と言われる作品ではないかもしれない。しかし、誰かの心に刺さる、エッジの効いた秀作が揃うのである。ゴールデン・ウィークには選ぶ楽しみがある。そして自分だけの今年の1本が見つかるのもこの時期が多い。
逆説的に考えてみよう。 万人受けする作品は夏休み、もしくはお正月が多い。ファミリー向けなら春休みという手もある。したがって良い作品だが特定の観客を狙っているものが、ゴールデン・ウィークにこそ登場するのだ!
つまり、年間で最強の個性的傑作はゴールデン・ウィークになってしまうのである。
注意点はただひとつ! 人によって好みは千差万別。
結果論で言えば、当たり外れが最も多いのもゴールデン・ウィークなのかもしれない。
映画業界の人間がなぜこんなことを書くのか?
実は私の願いは、皆様に外れこそ観ていただきたいというおススメである。(正確には外れと思っている作品)
映画は食わず嫌いの宝庫である。
詳しくはまたの機会に書くとして、今度のゴールデン・ウィークは見逃した旧作を掘り起こすのも一興ではないだろうか。
岡山メルパ館長 福武孝之