岡山メルパ 福武 孝之館長
映画業界20年、老舗映画館を切り盛りする名物館長。映画が持つ「観ることで、自分の世界が広がる」魅力を広めるべく、多彩なイベントを展開。ジャンルや制作者にこだわらない、テキトーな鑑賞が映画愛を高める秘訣。映画が好き過ぎて、あこがれのターミネーターに変身。特殊メイクがんばりました!
「復讐劇」
実は、復讐劇は映画の定番である。
今までたくさんの復讐劇が作られ、名作となったものも多い。さらに言えば、復讐がテーマでなくても、一部に復讐劇を含む作品は数多にある。復讐劇は一見、暗く醜い物語に見えるかもしれないが、実は人が最も感情移入しやすい物語ではないだろうか?
観客は無意識のうちに主人公の立場に自分を置く。劇中で主人公が不条理にひどい目に合えば、観客は多少なりとも怒りを感じる。この時点ですでに感情移入が始まっている。喜怒哀楽で言えば「怒り」の感情を観客に持たせることが最も簡単なのかも知れない。
復讐劇は観客と共有した「怒り」をクライマックスで晴らすことにより、観客に爽快感(またはカタルシス)を与え、鑑賞後の感想をよくすることができる。つまり復讐劇は後味の悪い物語だけでなく、スカッと爽快な物語も提供できるのである。
そもそも日本人は復讐劇が大好きである。
多くのテレビ時代劇が復讐劇であり、代表作は「必殺シリーズ」ではないだろうか!?
冒頭で徹底的に不条理な仕打ちを受ける弱者をクライマックスで仕事人がコテンパンにやっつけてくれるのだ。『水戸黄門』や『遠山の金さん』なども一部この法則が含まれていると思う。日本には「仇討」や「耐え忍ぶ」文化があり復讐劇を受け入れる素質があるのである。
一方、海外の作品でも復讐劇は次々につくられていて、名作となるものが多い。
ジャン・レノとナタリー・ポートマンの『レオン』は復讐劇の名作と言ってよいだろうが、私には忘れられない個性的な復讐劇は3本ある。『ロング・キス・グッドナイト』(1996年)『ダブル・ジョパディー』(1999年)、『イナフ』(2002年)である。
『ロング・キス・グッドナイト』は普通の主婦が実は記憶を無くしているだけで、本当は凄腕の暗殺者だったという原作が、当時数億円の争奪戦になったという伝説の作品。記憶を取り戻して復讐を始めるジーナ・デイビスがすご過ぎるのである。
『ダブル・ジョパディー』はタイトルの意味「二重処罰の禁止」という米法律の落とし穴を利用した母の復讐劇である。奇抜で新鮮な作品。
そして『イナフ』はジェニファー・ロペス主演によるDV夫を最後にぶちのめす作品。はじめはDVに抗えない妻が、肉体と精神を鍛えあげ超マッチョになって「あなた、お帰りなさい」と登場するシーンが忘れられない。
気付いてみれば3本とも女性が主役の復讐劇ではないか!
復讐は女性の方が恐いのだろうか!?・・・ こんなことを書いていると背中に殺気を感じる!(汗)
そこで女性にも絶対観てもらいたい映画を紹介しよう!
4月22日(金)公開の『レヴェナント 蘇えりし者』である。
ついにアカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞したレオナルド・ディカプリオの正真正銘の復讐劇である。復讐劇は今まで語ってきたとおり「やられたので、やり返す!」という単純なものである。しかし、結末を納得させるためにはひとつのルールがある。それは、やられたことの度合いと、やり返す度合いが釣り合わなければいけないのだ。このさじ加減が重要なのである。
その点で今回の「レヴェナント」は大変なことになっているのだ!
やられた事があまりに惨いのである。だから、その復讐が凄まじいことになることは容易に想像できるだろう。この執念という人間が持つ生命力は我々に恐怖すら感じさせるのである。
しかもこれが実話に基づく物語であると言う事。
驚愕! 圧巻! その先に感動!である。
現実の世界に願わくはあってほしくない「復讐」なので、映画の世界だけで味わってほしいのである。
作品紹介
- レヴェナント 蘇えりし者」
- 監督:アレハンドロ・G・イニャリトゥ
出演:レオナルド・ディカプリオ トム・ハーディ
音楽:坂本龍一 - 4月22日(金)より岡山メルパほかにて公開!
岡山メルパ館長 福武孝之