『ハレノワ』に劇作家が集うフェスティバルが熱い! 作り手も観客も、ともに楽しむ劇作の世界。
岡山の劇作家たちが2023年から始めた「小さい劇作家フェス」の輪が広がっています。
会話の奥深さを思い切り味わえることが、戯曲の魅力。活動には、「岡山ゆかりの劇作家同士が出会い、戯曲を披露しあうことで、新たな創造や岡山ならではの企画につながってほしい。そして、観客もいろんな戯曲を楽しむことで創作の面白さを体感できる場になれば」という願いがこめられています。

2025年 2月には、『岡山芸術創造劇場 ハレノワ』小劇場で「小さい劇作家フェスvol.3」を開催。3人の劇作家の戯曲が、地元の役者によって各30分上演され、三者三様に観客を魅了しました。
少し紹介すると、1作目は、「せんだい短編戯曲賞」大賞の受賞歴を持つ・河合穂高さん(岡山大学学術研究院准教授)の新作短編『海の底の石』。
恋愛感情がわからない女性が友人の結婚に抱くとまどいが、がんの研究者である河合さんならではの生物学的知見を交えて描かれた作品です。

2作目は短編『落語Ⅱ』。劇作歴一年にして中四国ナンバーワン劇作家を決める「第8回中国ブロック劇王決定戦」で3位と好成績を挙げた片山順貴さん(岡山大学演劇部OB)作の一人芝居です。
新境地の落語を目指す青年と死んだはずの師匠との支離滅裂なやりとりに引き込まれます。

3作目は、「劇作家協会新人戯曲賞」や「近松門左衛門賞」の受賞歴を持つ・角ひろみさんの新作短編『風子と雨子と無限の松男』。
在原行平と出会った海女の姉妹の悲恋を描いた能「松風」から着想。平安時代の女性と現代の女性の想いが時空を超えて交錯し、女性としてどう生きるかを問いかけた作品です。

なかでも、角ひろみさんは『ハレノワ』で高校生を対象とした戯曲ワークショップの講師をするなど、未来の劇作家の育成にも力を注いできました。
そもそも「小さい劇作家フェス」の開催は、「世の中がコロナ禍に突入したことに端を発する」と角さん。
「上演作が軒並みなくなり、気軽に人と会うことさえかなわなくなった。そんなコロナ禍真っただなかで、同じ兵庫出身で劇作家の、河合さんと私が『とりあえず会って話そうよ』となって」
「お互いの劇作について、また『岡山でやっていくには?』など大風呂敷を広げた話をしました(笑)。そして、この会に名前をつけようと2022年に2人で立ち上げたのが『岡山劇作家会』で、自分たちの作品を俳優とともに読み合い、感想を言い合う小さな会を始めました」。
やがて場所の提供者のひとり、スミカオリさんとともに何かやってみようと開いたのが、2023年10月「小さい劇作家フェスvol.1」と題した「ゆっくりふくらむ劇作家フェス」。30人ほど入る長屋の会場が満員になりました。
「vol.1と次のvol.2では、劇作家の作品のリーディングのほか、私の戯曲の一部を読んで、その先の展開を観客と出演者が一緒に考える、みたいな企画もしました。戯曲を書いてみたい人と出会いたくて(笑)」。

「小さい劇作家フェスvol.2」は、2024年2月に『ハレノワ』アートサロンで開催され、スミカオリさんが観客の立場からサポートする「ネオ観客実行委員会」の実行委員長に就任。
もともと舞台芸術の大ファンを自負する彼女は、2021年に『岡山県天神山文化プラザ』で3日間上演された「春の遺伝子」(河合穂高作、角ひろみ演出)で広報用レビューを書いたことから、角さんとの交流が深まっていったといいます。

スミカオリ実行委員長は、「レビューを書くために、稽古の立ち上げから、本番も全回見て、いろんな気づきがありました。すごく豊かな体験だった。だから、生の舞台が繰り返し味わえるといいなと思うんです。岡山が、ロングラン公演をしたいと言ってもらえる地になれば、東京や大阪など遠方まで観に行く交通費が浮くし、リピーター割引があるとうれしいですね」と笑います。
「『見巧者(みごうしゃ)』という言葉があって…。古典芸能の洗練されたお客さんのことですが、そんな客側も協力して盛り上げるような舞台をみんなで楽しみながら探求していけたら。公演する側が『岡山に行くと客席の反応がいいから、すごくいい本番ができるんだよなぁ』と言ってもらえるようにしたいです」と、熱い思いを抱きます。

「ネオ観客」とは、「劇場で本を読むおもしろさと客席に座るおもしろさをつなぐことができたら…」という思いから生まれた造語とか。
「ネオ観客実行委員会」では昨年から、「観劇をより深く、能動的に楽しんじゃおう」と、『ハレノワ』のブックカフェで「劇場デ読ム会」も始めました。予備知識不要の気軽な会で、『ハレノワ』で上演される舞台の前後に、その原作や戯曲の一部を読んで感想を共有したり、想像を膨らませたり…。舞台とコラボレーションすることで広がる化学反応が楽しみです。

一方、角ひろみさんは『ハレノワ』で、「劇場で出会う文学」というテーマで文学作品をもとにしたリーディング公演の演出も手がけていて、以前その話を伺った時、こんな言葉が印象的でした。
「海外の文学フェスティバルでは一番の主力が戯曲だそうです。日本は文学に戯曲が入るというイメージがないので意外でしたが、劇作家・シェイクスピアの本は世界中で読まれていますから…」。
2023年に日本で初めて、ユネスコ創造都市ネットワーク・文学分野の加盟都市になった岡山市。『ハレノワ』の誕生も刺激となり、戯曲が文学として親しまれるムーブメントも広がっていくかもしれません。
そしてこの秋。日本劇作家協会の企画で、2025年10月31日(金)~11月3日(月)に、全国から劇作家が集うビッグイベント「劇作家フェスティバル2025『げきじゃ!』」が『ハレノワ』で開催されます。
4日間、毎日様々な目玉企画を用意し、トークショーやリーディング、演劇、劇作家によるワークショップなどが繰り広げられます。
1994年を皮切りに、各都市で8回開かれた劇作家の大会が岡山に来るのは画期的!「げきじゃ!」の準備にも関わる角ひろみさんは、「催しは20企画以上。『小さい劇作家フェス』の延長線上で、地元の役者や劇団とのつながりも大切にした、観客参加型の企画もやる予定です」と言葉に力を込めます。
『ハレノワ』が、舞台を作る側と観る側の双方で刺激しあいながら楽しめる場になったら…。なんだか、ワクワクしてきました。
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