先代の母からつないだ伝統の味。昼は店、夜は屋台の二刀流で、忘れられない一杯を届ける。
のどかな田園風景の中で目に留まる、年季の入った看板と赤い暖簾の佇まい。ここは昼間は店、夜は屋台という二刀流のスタイルを続けて15年以上が経つ『電幸』。店での昼営業が終わるころ、こぢんまりとした店内に入ると、厨房では店主の由田(よしだ)さんが夜営業の仕込みに取り掛かっていた。閉店前から寸胴にたっぷりと湯を沸かし、店の暖簾を仕舞うと共に、屋台車にその日の分のスープやタレ、具材を手際よく積み込んでいく。日が暮れるころに出発して、屋台の営業を終えるのはだいたい10時すぎ。ひとりで店と屋台を切り盛りする上での苦労を聞いてみると、「寒いのも暑いのも大変じゃけど、苦労とは思わないかな。家にいてもやることないから走っとんよ」と、力みのない答えが返ってきた。「こだわりも特にない」と笑うが、その気取らない人柄も常連客に親しまれる理由のひとつだ。先代である母から子へ受け継がれた伝統は、消えゆく「夜鳴きラーメン」の文化を岡山に残す、唯一無二の存在へとなりつつある。
由田さんの母がラーメン屋台『伝幸(でんこう)』を開業したのは、今から43年ほど前のこと。岡山県民にはなじみの深い鶏ガラしょうゆの中華そばを提供し、一旦は暖簾を下ろすも、現在の屋号『電幸』に改め店舗を構えて営業を再開した。それを機に味の方向性を大きく変えて、7種の野菜をベースに豚骨と鶏ガラをブレンドしたスープと、岡山の老舗製麺所『冨士麺ず工房』の麺がバランスよく合わさった『電幸』ならではの味が完成。以来、由田さんに代替わりした今もレシピと材料はそのままだ。野菜の甘みを感じるコク深いスープは、しょうゆやみそ、具材の風味が引き立つ優しい味わい。店舗には由田さんが考案した「ネギキムチラーメン」などの個性派もそろうが、屋台では「ラーメン」と「チャーシューメン」の2種類を提供している。主に岡山市内の住宅街を巡回するため、飲みのシメから家族の夕食までニーズも幅広く、常連客の家に宅配をすることも多い。「昔と違って携帯電話で注文や場所の確認ができるのは便利かな。若い人は珍しがって、自分の車で追いかけてきた子もおるんよ」。屋台で生まれた数々のエピソードを語りながら、「無理せず続けていきたい」と話す由田さん。その笑顔に、たとえ時代は変わっても一期一会の出会いと人情味あふれる屋台の「味」そのものは変わらないのだ、と確信させられた。今日も誰かの「忘れられない味」を届けに、小さな明かりで街へと出かけていく。
Information
ラーメン 電幸
先代の母が始めた屋台ラーメンの思いを受け継ぎ、懐かしい「夜鳴きそば」のスタイルを貫く店。夜は 屋台車で岡山市内を走り、電話での宅配注文にも対応している。7種類の野菜に豚骨、鶏ガラをじっくり煮込んだ滋味深いスープは、たっぷりのネギや麺とも相性抜群。山盛り野菜の「野菜ラーメン」や、長ネギキムチが絶品の「ネギキムチラーメン」も人気。
- 住所
- 岡山市南区内尾414-5MAP
- 電話番号
- 090-2808-3737
- 営業時間
- 11:00~18:00(OS17:45) ※屋台営業は19:30~(時間不定)
- 休み
- 月曜 ※屋台営業は雨天休み
- 席数
- 9席
- 駐車場
- 10台
- HP
- https://ramen-dk.com/
<消費税率の変更にともなう表記価格についてのご注意>
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