「行列ができる」と言えば、日曜夜のテレビ番組を連想されるかもしれませんが、「岡山で行列ができる店は?」と問えば、多くの人がイメージする店は限られてくるでしょう。
「岡山ラーメン」については、以前少し書かせていただきましたが、「終戦直後の屋台発祥で豚骨醤油がそうだ」と語られることが多いです。が、あくまでもそれは「岡山市ラーメン」であって、県西部に行くとまた違ったラーメン文化に出くわします。かつて兵庫から山口に渡っての海沿いを「瀬戸内ラーメンライン」と名づけた先達がいますが、地域をまたがることでその個性も変わるのでしょう。とはいえ、岡山市内も多種多様。たとえば老舗で鶏がらメインの有名店もあります。そこから程近い、このお店も店構えは「洋食店」。そういう意味では「異端」なのかもしれませんが、味わいは正統派です。今回は3代にわたって老舗の味わいを守り続ける「あの行列店」にお邪魔してきました。
まず、ここは洋食店ですよね。なぜに中華そばなんですか? 「ウチは開店時からずっと、『洋食とラーメンの店』なんですよ!」とおかみさん。昭和23年の創業前、洋食店で働いていた先代(現ご主人の父)が戦争で徴兵されて中国大陸へ。「満州の方で高級将校たちの料理を作っていたそうで。そこで麺を使ったメニューを学んだようです。あくまで推測ですけどね…」とご主人が教えてくださいました。なるほど、そういうことでしたか! 今でこそメジャーな『魚介系』のスープは? 「全国でも先駆けでしょう」。やはり! すごいじゃないですか! 「物資不足の当時に『コンブにカツオブシなど、手に入った食材で作ったらこうなった』と父から聞きました。シンプルだから長く愛されたのでしょうね…」。いや、ご主人。最先端はどの時代でも先が細いもの。その先っちょにようやく世間が乗ったのですよ。写真は「中華そば」730円にキクラゲや玉子、カマボコなどを加えた「五目そば」880円。
『やまと』といえば、ラーメンと並んで有名なのが…。そう、「カツ丼」780円です。子どものころから「岡山市・デミカツ丼BIG3のひとつ」として、よーく存じてますよ。「それは長くやっているからでしょう」とご主人は謙遜されますが、カツのボリューム感に加えデミグラスのおいしさはひと言で表せません。「ソースに『中華そば』と同じだしを使ってるんですよ。味わいがどことなく和風でしょ?」だから、洋食店じゃないんですか(笑)? すかさず「日本人にあわせた洋食なんですよ。要は大衆的なんですね」と再びおかみさん。ああ、なるほど。「最近は、ご当地グルメブームで『岡山のデミカツ丼』が有名になって、取材もこっちの方が増えましたね」。岡山では定番中の定番ですもんね。その先駆けの一杯でしょう。
「中華そばと一緒に食べていただける、洋食っぽいメニューも作りましょうか?」と息子さん。「シチュー」1200円は、タンがメインなんですね。「うまみが逃げないようにスチームで大量に作ります。下ごしらえして4時間ぐらい煮込むかな? 食感がなくなり過ぎても困りますが、できるだけ柔らかくしたいので」。いや、陳腐な表現ですけど、口の中でとろけてますよ。大ぶりのタンが4、5つ入って、一緒に煮込まれているタマネギが最高! 「ブランド肉とか使えばおいしくできるのは当然。手ごろな食材でいかにおいしくできるかが勝負なんですよ」とご主人が断言されると「『そういう風に日々努力している』と付け加えてください」とすかさずおかみさんがフォロー。ナイスなコンビネーションです(笑)。
行列ができる店として有名です。「ありがたいですね。でも入れる人数は決まっているから、できるだけお待たせしないように懸命です」。料理をしている姿は寡黙で頑固な職人気質な印象のご主人・大和信一さんは2代目。実際にお話をしてみると、雄弁でチャーミングな方です。「子どものころはステンレスがないから厨房は木製で。木に染み付いたしょうゆの香りを鮮烈に覚えていますよ」。そんなご主人は「東京で遊んでないで帰ってこい」と大学卒業直後に呼び戻され、先代とともにすぐお店に立ったそうです。そして今、横にいるのは息子さんである裕一さん。その3代目は「大きく変えていくことは考えてないですね。いい部分を残し、さらに長く愛される店に育てて行きたいです」と語られます。
時代が変わったとしても、それを乗り越えて「人」が未来を創るのですね。親から子へ、子からまたその子へと血は流れ、店は永遠に続いてく…。そう信じずにはおれません。
和風のだしが随所にきいた、大衆的「洋食とラーメンの店」。
「岡山を代表するラーメン店のひとつ」として、必ずと言っていいほど名前の挙がる名店。お昼の行列をみるまでもなく、お店の佇まいひとつとっても絵になり、説得力がある。「創業時も同じ場所。入り口は違ったんですけどね。本当にこの土地の方々に支えられて続けてこれたんです」とご主人。中華そばの麺は、岡山ではスタンダードな中太のものでスープに合わせて粉を配合したもの。「大昔は『大和麺業』という同じ名前の製麺所のものだったんですけど、辞められてしまって。一時期は自家製麺もやってたんですが追いつかない。今は岡山でも有名な製麺所の信頼できる麺を使ってます」とのこと。最後に、「赤ちゃん連れからお年寄りまで、本当に幅広い層の方にご利用いただいています。私どもにできることは何でも致しますから、気軽に声をかけていただきたいですね」と、やはりおかみさんが締めてくれた。この家庭的な雰囲気が最高だ。
Information
食堂 やまと
- 住所
- 岡山市北区表町1‐9‐7 [MAP]
- 電話番号
- 086-232-3944
- 営業時間
- 11:00~OS.19:00(15:00~16:00は麺類のみ)
- 休み
- 火曜 ※祝日の場合は翌日
- 席数
- 28席
- 駐車場
- なし
- http://www.shokudou-yamato.com/